女子学生の新たな進路「高等専門学校」 沖縄高専「3K農業をDX化」&北九州工業高専「ロボコンチームを会社化」

高専の知られざる魅力 #4 注目すべき高専6選「沖縄高等専門学校」「北九州工業高等専門学校」

ロボコンチームを会社化してビジネスマインドを育成

北九州高専は2023年11月、東京・両国国技館で開催された「高専ロボコン2023全国大会」に出場しました。  写真提供:北九州工業高等専門学校

福岡県北九州市にある「北九州工業高等専門学校」は全校学生数1041名(2023年5月1日現在)。本科は生産デザイン工学科の下、「機械創造システム」、「知能ロボットシステム」、「電気電子」、「情報システム」、「物質化学」の5コースがあります。

──北九州高専はロボコン(全国高等専門学校ロボットコンテスト)での優勝経験も豊富な強豪校。長年ロボコンチームの指導を手がける知能ロボットシステムコース・久池井茂先生も高専出身と聞きました。

久池井茂先生(以下、久池井先生):高専生のなかには、経済的に余裕がない家庭の子もいます。私の家も「大学に行かせるお金がないから高専に進学してほしい」という親の強い要望がありました。今振り返っても悪い選択ではなかったですし、いろいろチャレンジできる環境に恵まれたと思います。ただし、大学と勝負するとアカデミックな部分では敵わないところもある。でも逆に、「高専だからできること」の強みもあります。

──アカデミックな部分、つまり学問への深い理解や研究能力という点ですね。そのように、大学と高専で学びの内容や質がどう違うのか、気になります。

久池井先生:大学では基礎研究に重点が置かれています。新たな知を発見するとか、何かを発明するイメージですね。逆に高専は産業界に近いところにあり、中小企業と協力して技術や知識を社会ですぐに活用できるようしたり、細かい部分をアレンジしたりと、ニーズに対して小回りが利く。高専が実践的といわれるゆえんです。

高専におけるエンジニアリング教育は、大学に負けないくらい徹底的にやっています。しかし、技術ばかりを叩き込まれていて、幅広い視野をもって物事を考えたり、異業種と組んでビジネスに活かすという観点に欠けています。これからの高専生には、ビジネスマインドやリーダーシップ教育も必要だと思っています。

──久池井先生が指導されているロボコンチーム「あばうたぁ~ず」は、会社のようなバーチャル・カンパニーにされています。それも、ビジネスマインドを育てるためでしょうか。

久池井先生:ロボコンのチームは有志の学生による団体ですが、チームを組織化しています。トップを「社長」と呼び、その下に「副社長」「イベント部」「広報部」「会計部」「宴会部」「情報システム部」で構成しています。学生には予算を伝え、成果を出すこと、遊びではないことを厳しく言っています。

それぞれの役割や責任が明確になることでメンバーの意識が高まり、目標を達成しやすくなります。もちろん意見のぶつかり合いや、喧嘩もしょっちゅう。モノづくりを通して、さまざまなドラマがありますが、それらを協力しながら乗り越える力を身につけています。
 
2023年11月のロボコン全国大会では入念な準備で臨んだはずが、本番で小さなミスをして失敗。なんと1回戦敗退という苦い結果になりました。しかし学生たちは、大会に向けたたった半年の準備期間で、人としてものすごく成長したと感じます。

北九州高専のロボコンチーム「あばうたぁ~ず」は、高専ロボコンの全国大会で多くの受賞歴があることでも知られています。  写真提供:北九州工業高等専門学校
2023年の全国大会の結果は惜しくも1回戦敗退となりましたが、大会協賛企業である株式会社安川電機より、特別賞が贈られました。  写真提供:北九州工業高等専門学校

「モノづくりは人づくり」が高専生の自主性を育てる

──久池井先生は、地域産業のプロジェクトで共同研究をおこなったり、講師として経営者向けのセミナーに参加するなど研究者・技術者としてだけでなく、ビジネスの世界でもご活躍ですが、その理由を教えてください。

久池井先生:ひと昔前は、学校のようなアカデミックな世界と産業界は結びつきがほぼありませんでした。でも今は、「産学共創」の気運がこれまでになく高まっています。たとえば、私が担当する「知能ロボットシステムコース」は、単にロボットをつくる学科ではありません。

ロボットに搭載するAIやビッグデータを活用し、全体をどうコーディネートして最適化するか。これまで医療・農業・介護などさまざまな分野で共同研究をしたり、なかには製品化したものもあります。進化の激しい分野ですから、産業界との連携は学生にとって何よりの学びにもなります。

一方、私個人としては、中小企業を対象にした「エグゼクティブ・ビジネススクール」で、デジタル技術を活用した支援セミナーなどをおこない、経営者の皆さんのマインドセットを変える研修をしています。

産学双方が働きかけ、私の背中を見て、私がいなくても、学生が自主的に企業と関わり、協働できるところまで持っていきたいんです。

中小企業との共同研究をはじめ、ロボット開発やAIによる効率化を図るなど高専の技術は地域産業に貢献しています。  写真提供:北九州工業高等専門学校

久池井先生:今、世界では「日本は技術で勝って、ビジネスで負ける」という状況です。それをぜひ打破するような教育をしたいと思っています。

高専生の数は、全国の高校生の中で、たった1%ですが、その1%が世の中を変える可能性があると信じています。

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沖縄高専の「創造研究」では学生一人ひとりの研究を内容にふさわしい教員が担当し、必要ならば惜しみなくサポートするオーダーメイド型の教育を実現。

北九州高専では学生の自主性を重んじながら、社会で即戦力となるべく未来を見据えた教育を与える。高専の先生たちの熱い想いが伝わります。

次回5回目は、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育を導入した「神山まるごと高専」と「旭川工業高等専門学校」の取り組みをご紹介します。

取材・文/鈴木美和

高専連載は全5回。
1回目を読む(高専理事長インタビュー前編)。
2回目を読む(高専理事長インタビュー後編)。
3回目を読む(高知工業高等専門学校・広島商船高等専門学校)。
5回目を読む。(「神山まるごと高専」、「旭川工業高等専門学校」)。

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すずき みわ

鈴木 美和

Suzuki Miwa
ライター

フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。

フリーライター。千葉県出身。『dancyu』、『読売新聞』、『UOMO』などの雑誌や新聞、オンラインを中心に食の記事を寄稿。 出産を機に千葉県・房総に移住。2人の男児の子育てに奮闘する中で、育児の悩みや教育の大切さを実感したことから、現在は教育業界を中心に、取材や執筆活動を行っている。 地元の新鮮な食材を使って料理をするのが日々の楽しみ。