絵本ナビ編集長がおすすめする 4歳の子どもが読むのにぴったりな絵本

絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイ第7回

磯崎 園子

絵本と年齢をあれこれ考える「自分の感情をもてあます」
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絵本の情報サイト「絵本ナビ」編集長の磯崎園子さんが『絵本と年齢をあれこれ考える』エッセイです。

第7回目は、4歳児と絵本の前編「自分の感情をもてあます」。

自分の感情をもてあます

はっと目が覚めると、まわりには誰もいない。外は大雨。途端に不安になって大声で泣き出したけれど、やっぱり一人。

しばらくすると、雨に降られた母が「ごめん、ごめん」と帰ってくる。なんのことはない、私が居眠りしている間に少し外に出ていただけの話である。断片的だけれど、はっきりと覚えているその光景。
感情と共に残る記憶
あるいは、幼稚園で調子に乗りすぎ、ひとり廊下に出され、園庭をぼーっと眺め続けていた時の景色。大人しくしていたら褒められ、嬉しくてそのままじっと正座を我慢していた時の座布団の感触。どれも4歳の頃の自分の記憶。

すべてに共通しているのは、気持ちが高ぶっている瞬間だということ。「どうして一人にするの?」「怒られた理由がわからない」「褒められたいけど、つらい」。そんな風にまだ言葉にはなっていないけれど、その感情は3歳の時よりも明らかにずっと複雑で、だからこそ強く印象に残っているのである。

感情を丁寧に描くことで

その傾向は、絵本の中にもあらわれる。『こんとあき』(林 明子・作 福音館書店)で、あきは、生まれた時から一緒のぬいぐるみのこんと、二人だけで電車に乗り、おばあちゃんの家に向かう。こんは、あきが不安にならないように目を配り、自らお弁当を買いに行く。

ドキドキしながらもなんとか駅まで到着し、少し心の余裕ができた二人は砂丘に寄ってみることにする。ところが、ここで事態は急展開。こんが、目の前からいなくなってしまうのだ。犬にくわえられ、そのまま砂に埋められていたこんを必死で救い出すあき。どうしてこんなことが起きているのか、理解できない。

だけれど、あきはこんを背負い、まっすぐ前を見て歩き出す。早くこんをおばあちゃんのところに連れていかないと! あきなりに考え、出した答えを頼りに体を動かすのである。読み終わってみれば、見守られているのはこんの方。いつの間にか立場が入れ替わっている。
「こんとあき」
このように視点も立場も次々に変化していくこの物語。そう言ってしまうと難しそうに聞こえるが、大事なポイントは、どの場面でも丁寧に描かれるあきの心情。

こんを頼っている時、戻ってこなくてどんどん不安になっていく時、やっと会えたおばあちゃんに顔をうずめている時。どれもが等身大の感情だからこそ、子どもたちはあっという間に共感し、夢中になり、大人ですら子ども時代の心境を思い出し、ドキドキしながらお話に入り込んでしまうのである。

もてあましているからこそ

身体も心も急激に成長していく4歳。急に大人っぽい発言をしてまわりを驚かせたかと思えば、ぐずりだし、癇癪を起こすことも。その成長に追いつけなくて、一番とまどっているのは本人たちなのだろう。

経験したことのない感情、説明できない複雑な気持ち、そして生まれてくる周りへの気遣い。それらを消化しきれずに「もてあましている」からこそ、時に大人が驚くような態度をとったりする。
感情をもてあます4歳児
センダックの傑作絵本『かいじゅうたちのいるところ』(神宮 輝夫・訳 冨山房)の中で、マックスは最初から大暴れしている。おおかみのぬいぐるみを着て、いたずらを重ね、おまけに「おまえをたべちゃうぞ!」とおかあさんを脅し、叱られる。ところがマックスは、反省するどころか、もっと大暴れができる国を発見してしまうのである。

世にも恐ろしい姿をしているかいじゅうたちを従わせ、あっという間にその国の王さまとなり、心の限り遊び尽くす。やがて、やりきったマックスの鼻先に届くのは、懐かしいごはんのにおい。こうしてマックスは、無事に私たちのもとに帰ってくる。
「かいじゅうたちのいるところ」
緊張感を保ちながらも、マックスと思いっきり遊んでくれるかいじゅうたち。あんなに暴れていたのに、しっかりと夕ごはんを作ってまっていてくれるおかあさん。そうした大人に囲まれているからこそ、この物語は成り立っている。

けれど、その出発点にあるのは、この年齢の子どもたちの中にくすぶっている爆発的な感情であることは間違いない。その感情を上手に説明し、整理することができたなら、「かいじゅうたちのいる国」は生まれなかったのではないか。それほど魅力的な時期とも言えるのである。
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