岩手県からはじめて発見された異常巻アンモナイト! 新たな示準化石となるか⁉︎

【ちょっとマニアな古生物のふしぎ】古生物学者・相場大佑先生が見つけた古生物のふしぎ

古生物学者:相場 大佑

示準化石ってなに?

化石が出た地層を調査!
示準化石と生層序学

化石の中には、地層の年代を示す示準化石と呼ばれるものがあります。例えば、恐竜の化石が出たら中生代、三葉虫が出たら古生代というように、地層の年代を知ることができるのが示準化石です。理想的な示準化石の条件は、「生息年代が狭いこと」「生息分布が広いこと」「豊富に見つかること」です。進化が早く、地層の時代ごとに異なる形の化石が世界中からたくさん産出するアンモナイトの各種は、これらの条件を満たす代表的な示準化石です。

地層から見つかる化石・地層の重なりを調べ、年代を決める学問のことを生層序学と言います。古生物学はもともと生層序学からはじまった学問です。地質時代は「〇〇代××紀△△期(前期・中期・後期)」などと細かく分けられていますが、実はアンモナイトの種類により決められた時代が多くあります。例えば、アロサウルスやステゴサウルスなどの恐竜が生きていた時代として有名な中生代ジュラ紀の始まりは、「プシロセラス」というアンモナイトの出現により定義されています。

最近、僕は岩手県で示準化石や生層序学に関係する研究をしているので、今回はその研究についてのお話をしたいと思います。
岩手県の地層「久慈層群」から見つかった異常巻アンモナイト

岩手県の北東地域の海岸近くには「久慈層群」と呼ばれる中生代白亜紀の地層が分布しています。久慈層群は河川や浅い海でできた地層で、河川層からは琥珀や恐竜、カメなどの化石が、浅海層からはアンモナイトや二枚貝などの化石が見つかっています。

最近、久慈層群の浅海層から過去に採取され、岩手県立博物館に保管されている化石のうちの一つがユーボストリコセラス・ヴァルデラクサムという異常巻アンモナイトであることがわかりました(学名が少し長いので、この先では「E. (イー)ヴァルデラクサム」と書きたいと思います)。また、示準化石のひとつである二枚貝のプラチセラムス・ジャポニクス(以下、P.(ピー) ジャポニクス)も同じ場所で見つかったことから、地層の年代が中生代白亜紀カンパニアン期前期(約8360万〜8020万年前)であることがわかりました。
岩手県で見つかったアンモナイトE. ヴァルデラクサムと二枚貝P. ジャポニクス。A:E. ヴァルデラクサム、B:殻の全体復元図と化石の産出部位(推測)、C:復元画、D:P. ジャポニクス。
E. ヴァルデラクサムは、もともと北海道で発見され、僕たちが2017年に新種として発表したアンモナイトです。これについては、別の記事でも書いていますので、そちらも読んでみてください(https://cocreco.kodansha.co.jp/move/news/repo/eAxIJ)。

北海道産のE. ヴァルデラクサムも、カンパニアン期前期(約8360万〜8020万年前)の地層から、二枚貝P. ジャポニクスと共に発見されていました。
最初に北海道で見つかったアンモナイトE. ヴァルデラクサムと二枚貝P. ジャポニクス。A:E. ヴァルデラクサム、B:復元画(田近 周氏提供)、C:P. ジャポニクス。
E. ヴァルデラクサムが新たな示準化石になるかも!?

もともと北海道で見つかっていたE. ヴァルデラクサムが、岩手県でも見つかったことにはどんな意義があるのでしょうか?

日本の白亜紀後期の地層はアンモナイトや二枚貝により、細かく時代が分けられています。二枚貝P. ジャポニクスで特徴付けられる白亜紀カンパニアン期前期の地層からはアンモナイトも見つかっていますが、示準化石の要件を満たすような種類はごくわずかでした。極端なことを言うなら、二枚貝P. ジャポニクスを見つけないと時代決定ができなかった、というような状況です。

そんな時代決定が少し難しかった地層から、E. ヴァルデラサムを北海道と岩手県で共通して見つけることができました。今回の発見で、この種がカンパニアン期前期のみに生きていたらしいこと、そして北海道と岩手県のカンパニアン期前期を示す示準化石となる可能性があることがわかったのです。共通種が一種追加されたことで時代決定が少しだけやりやすくなったと言えます。

今後、ほかの地域でもE. ヴァルデラサムを見つけたら、その地層の年代をカンパニアン期前期(=約8360万〜8020万年前)と決定できるかもしれません。
北海道と岩手県の白亜紀の地層の対比。岩手県の地層柱状図は照井(1986)を元に作成した。
野外調査:化石が出た地層を特定したい!

この研究は、岩手県立博物館の望月貴史さんと一緒に行ったもので、この発見を書いた論文が、日本古生物学会が発行する専門誌に掲載されることが最近決まりました。

この研究では野外調査も少しだけ行いました。博物館にあったE. ヴァルデラクサムの化石自体は、10年ほど前に実施された住宅地開発のための地盤工事で出た岩石から、化石愛好家の方によって採集されたものでした。化石が出た場所は今ではコンクリートに舗装されており、地表に地層は残っていないとのことでしたが、今回の化石は地層の年代が重要になるので、化石が出た地層をどうしても直接確かめたくて現地に行ってみることにしたのです。

化石が出た場所は聞いていた通り舗装された綺麗な住宅地でしたが、諦めの悪い僕たちは、住宅地に隣接している高校にお願いして、敷地の斜面を少しだけ調べさせてもらうことにしました。
岩手県立久慈工業高等学校の敷地斜面での調査の様子。写っているのは望月さん。
しばらく調べると、斜面を覆う金網の奥に、わずかに露出している地層が見つかりました。

地層の砂の粒度や色などを見てみると、それは博物館に保管されていた化石が付いている岩石の特徴とまさしく同じものでした。化石は、この付近の地層から出たものでやっぱり間違いなさそうだと僕たちは自信を持つことができました。
金網の奥に見えた久慈層群の地層。
少し離れた場所で観察した、わずかに古い時代の地層。ここからはサメの歯の化石や生痕化石(巣穴の化石)などが見つかったが、地層の特徴はE. ヴァルデラクサムを含む岩石とは明らかに異なるものだった。
このように、古生物学では古生物自身の生態や進化を明らかにする以外にも、地層の年代などを知るための「モノサシ」として化石を見る生層序学という研究分野があります。アンモナイトを用いた生層序学は200年以上も続いており、非常に歴史が長いものですが、今回の研究のように今でも新しくわかることもあるのです。

地層と化石をじっくり調べて・比べて、その地域の地質や地史を理解していく生層序学には、例えるならパズルのような、静かな楽しさがあります。

岩手県で新たに見つかったE. ヴァルデラクサムの化石は岩手県立博物館で見ることができます(2024年4月時点)。

余談ですが、研究を進める中で生層序学に関する発見がもうひとつありました。岩手県の地層と化石の調査はまだ続きそうです。
参考文献
Aiba, D. and Mochizuki, T., in press: Eubostrychoceras valdelaxum, a lowermost Campanian nostoceratid ammonoid from the Kunitan Formation of the Kuji Group in Iwate, northeastern Japan. Paleontological Research.
Aiba, D., Yamato, H., Kurihara, K. and Karasawa, T., 2017: A new species of Eubostrychoceras (Ammonoidea, Nostoceratidae) from the lower Campanian in the northwestern Pacific realm. Paleontological Research, vol. 21, p. 255–264.
照井一明, 1986: 野田村地質報告書 岩手県久慈地方の上部白亜系および古第三系の堆積学的研究. 野田村教育委員会, pp. 152.

画像提供/相場大佑
あいば だいすけ

相場 大佑

Daisuke Aiba
古生物学者

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。

深田地質研究所 研究員。1989年 東京都生まれ。2017年 横浜国立大学大学院博士課程修了、博士(学術)。三笠市立博物館 研究員を経て、2023年より現職。専門は古生物学(特にアンモナイト)。北海道から見つかった白亜紀の異常巻きアンモナイトの新種を、これまでに2種発表したほか、アンモナイトの生物としての姿に迫るべく、性別や生活史などについても研究を進めている。 また、巡回展『ポケモン化石博物館』を企画し、総合監修を務める。