スマホ育児はコミュ力に悪影響? 最新研究「共感性の危険」とは?
東京女子大・橋元良明教授「スマホ育児」の是非 #1~スマホ育児の危険性~
2022.01.06
社会心理学者・東京女子大学教授:橋元 良明
無制限のスマホとの接触は「依存」の入り口
赤ちゃんの頃からスマホを見せられた子どもたちは、その手軽な楽しさを覚え、そこで親の介入がない場合は制御がきかなくなり「スマホ依存」となってしまう危険性があると橋元教授は続けます。
「1歳近くなった子どもの多くがスマホに触れているなかで、特に興味を持つのは動画です。
親御さんに意識してほしいのは、長時間、動画を見せ続けないこと。そうしないとずっと見せてくれるものだと考え、取り上げると泣いたりする。見せるとしたら、せめて5分くらいの短時間に抑える。
おもちゃや遊びはスマホ以外にもたくさんありますよね。子どもの趣味を分散させることで、スマホから自然と距離が置けるようになります」(橋元教授)
スマホが共感性の獲得をはばむ可能性
橋元教授が考えるスマホ育児のデメリットとして、共感性が育たない危険性も挙げています。
「時代が変わっても、子育ての基本は直接的コミュニケーション。目と目を合わせて親子でふれあいながらで育てるのが大切です。
シェリー・タークルという心理学者(マサチューセッツ工科大学科学技術社会論の教授)の研究で、直接的な親子のふれあいや、目と目を合わせて話すことが少ないまま育てられると、10歳以降あたりで共感性に乏しい子どもになりがちだということが明らかにされています。
共感性は、相手にちゃんと視点を移して『自分があの人だったら?』と考えることで養われていくもの。人と話す際に視線がスマホだと、当然相手の目を見ることはない。それが常態化している子どもは、共感性を獲得する機会をスマホに奪われているといえます」(橋元教授)
また、タークル教授の調査によると、目を合わせない子どもは、親がテレビなどへの依存傾向にあったケースが多かったと、橋元教授は話します。
「親と目を合わせる機会が乏しいまま育った子どもは、相手の目を見る習慣が育たず視線を恐れるようになります。また、難しい会話から逃げがちにも。
日本よりアメリカのほうが人の目を見て話す文化が強いにもかかわらず、このような傾向が出てくるんですね。それに、スマホに依存する親の中には、子どもと話すときでも視線はスマホに合わせたままの人がいます。親がそういう対応だと、目を見て話す習慣は余計に身につかないですよね。
共感性というのは相手の気持ちを考える力。家庭や学校、会社と、人はどこに行っても他人とつながらなければ生きていけません。相手の気持ちをおもんばかることができないと、さまざまなトラブルを引き起こし、やがて自身に返ってきます。親はこのことを、スマホ育児が引き起こす将来的な影響として、頭の片隅に置いておくべきでしょう」(橋元教授)
スマホを育児に利用することは、親の負担を減らすのに役立つ反面、子どもの成長にネガティブな影響を秘めていることを橋元教授は教えてくれました。次回は、スマホ育児をうまく活用するための、より具体的な方法を紹介します。
取材・文/井上良太(シーアール)
※橋元良明教授のインタビューは全3回。
次回(#2)は22年1月9日公開です(公開日時までリンク無効)。
第2回 スマホ育児で本が読めない子に? 乳幼児期に大切なスマホのルール
井上 良太
ライター/編集者。編集プロダクション・シーアール所属。硬派なインタビュー記事から飲食店などを紹介する街ブラ記事まで、さまざまな媒体でディレクション、ライティングを担当。趣味はゲーム、音楽鑑賞、読書などエンタメ全般。 株式会社シーアール https://crnet.co.jp/
ライター/編集者。編集プロダクション・シーアール所属。硬派なインタビュー記事から飲食店などを紹介する街ブラ記事まで、さまざまな媒体でディレクション、ライティングを担当。趣味はゲーム、音楽鑑賞、読書などエンタメ全般。 株式会社シーアール https://crnet.co.jp/
橋元 良明
社会心理学者。東京女子大学教授。専門は「情報社会心理学」と「コミュニケーション論」。携帯電話やインターネットの普及に伴いコミュニケーションの様式がどんどん変化する中で、それが社会生活に及ぼす影響といった移り変わりをデータで裏付けながら分析・研究している。 『日本人の情報行動2020』(東京大学出版会)、『メディアと日本人―変わりゆく日常』(岩波書店)など著書多数。
社会心理学者。東京女子大学教授。専門は「情報社会心理学」と「コミュニケーション論」。携帯電話やインターネットの普及に伴いコミュニケーションの様式がどんどん変化する中で、それが社会生活に及ぼす影響といった移り変わりをデータで裏付けながら分析・研究している。 『日本人の情報行動2020』(東京大学出版会)、『メディアと日本人―変わりゆく日常』(岩波書店)など著書多数。