脳科学者・細田千尋先生が「3人の子育て」で必ずやっていることとは?
日常生活でも「継続する習慣」が、子どもの”やり抜く力”につながる〔細田千尋先生インタビュー 第5回〕
2021.06.24
医学博士・認知科学者・脳科学者:細田 千尋
幼児期は継続して学ぶ習慣をつけることを心がけよう
まず大切なのは“習慣付け”です。ランニングでも、最初は辛いけれど、走っているうちに楽しくなってきます。これは“オートマイゼーション”と言って、脳がその活動に慣れると小さな負荷で自動的にできるようになる、というわけです。だから子どもが辛いとき、親が一緒に乗り越えることで、継続する習慣を付けてあげるのをおすすめします。
私は現在、物事をやり抜く力があると脳の前頭葉に特徴が表れるという研究をしているのですが、脳の前頭葉の中でも一番先端にある『前頭極』という部分に注目しています。ここは将来を見越して、今何をすべきかを計画を立てて遂行する場所で、10代にかけても発達し続ける場所です。
実はIQが120以上と言われるスーパーIQの人たちの前頭葉は乳幼児期にはまだ小さく、IQが平均的な人のほうが少し大きかったりするんです。何がその後の違いを生み出すかというと、前頭葉の発達のピークである12~13歳のときに、どれだけダイナミックに脳を発達させるか、です。この時期の成長度合いが関わってくるんですね。ですから、例えば幼児期にどれだけお稽古やならいごとを詰め込んで脳を発達させていても、
それを12~13歳まで続けていなければあまり意味がないんですよ。
だから未就学の段階でできることは、継続して学ぶ習慣をつけることを心がけることです。ならいごとを継続するのもいいですし、絵本を自分で読む、日常生活の中で基本的なことを継続してきちんとやれる。こうしたことも、とても大切だと思います。
学習方法を工夫すれば脳はいくつになっても発達できる
もちろん、10代を過ぎてからでも発達を促すことは可能です。例えば私が行っている実験の被験者は平均年齢21歳と、少し高めです。この研究は、被験者たちの脳を測り、前頭極の値をプロットしてみると、一定の値より上にいる人たちは最後まで学習をやり抜くことができ、その値より下の人たちは、最初はとてもやる気があるのにドロップアウトしてしまうというもの。“やり抜く力(グリット)”が脳を見れば分かる、という研究なのですが、ドロップアウトすると評価された人たちでも、やり方を工夫すれば最後までやり抜けるようになります。
前頭葉の発達のピークは10代ですが、その後でも発達が可能です。 特に非認知能力は、乳幼児期と言うよりも、それ以降や大人になってからより伸ばすことができます。ですから、非認知能力は、子どもの頃に鍛えなければいけない、というのは間違いで、学習の方法は年齢やその人の性質によって違ってくるのです。中学生頃まではひたすら暗記で良くても、大人になると経験と結び付けて覚えるなど工夫が必要になってきます。
その人がどういう特性を持っているのかを見つけて学ぶことがなによりも大切で、人と競争するのが好きな人もいれば、苦手な人もいますよね。私の実験だと、競争する方ががんばれる傾向を持っている人には、「あなたは今、何位ですよ」など、競争させるように操作して実験的に学習してもらうんです。逆に、競争する環境だと委縮してしまう人には、違う方法でモチベーションを上げてもらう。そこを見極める方法を見つけましょう、というのが今の私の研究テーマなんです。
日常を丁寧に生きる親の姿から子どもは学ぶ
最後に我が家の子育てについてお話ししましょう。
うちは上の2人が年子で同性なのですが、全くタイプが違うんです。上の子は「見て見て! こんなにできるよ!」と、とにかくほめられると伸びるタイプ。逆に2番目はほめられたくない慎重派。評価されること自体が恥ずかしいようで、こちらが不安になるくらい、完全にできるようになってから披露するタイプです。発達の仕方もそれぞれ違いますし、一概じゃないことを自分の家庭の中でさえ感じています。
ですから、人と比べたり親の考えを押し付けたりしないことをいつも心掛けるようにしています。”ほかの子と絶対に比べない”という軸を持っていれば親のストレスも減りますしね。ちなみにこの、“親のストレス”を子どもはよく見ているんですよ。私は、自分がどういうマインドでどう行動しているのかを子どもはちゃんと見ているな、と気にしながら毎日生活しています。
あとは私が口ばかりではなく、きちんと行動して、その姿勢を見せるというのも気を付けています。よく思春期の子どもが親に「自分ができないようなこと、やらせんなよ」みたいに言うじゃないですか(笑)。まったくその通りなんですよ。生後数ヵ月の赤ちゃんですら、知識のある大人の言うことを聞く、ということが研究から明らかになっていますから。
本を読んで学ぶのもいいし、いくつになっても人間力を高める行動は必要です。そうやって日常をきちんと生きている親の姿勢を目にすることによって、子どもは生活と真摯に向き合うことを学ぶのだろうと思います。子どもにお稽古やならいごとをさせることに熱心になるだけではなく、親が自分の行動を見せることを、まずはやってほしいと思います。
とはいえ、子育ては日々大変で、理想的にはいかないのが本音ですけどね(笑)
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”幼児期のならいごと”を脳科学の視点から解説していただきましたが、お稽古やならいごとに通うことだけではなく、日常生活のすべてが子どもの成長につながる大切な要素なのだというのがよくわかりました。
細田先生、ありがとうございました。
取材・文 山田祥子
細田 千尋
東北大学加齢医学研究所及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授。 内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。 内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業(JST創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。 脳科学から子どもの非認知能力を育てる研究の親子モニター募集 https://gritbrain.wixsite.com/experiment2022-04 東北大学加齢医学研究所 https://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/ 細田千尋研究室㏋ https://neurocog.is.tohoku.ac.jp/
東北大学加齢医学研究所及び、東北大学大学院情報科学研究科准教授。 内閣府 moonshot研究目標9プロジェクトマネージャー(わたしたちの子育て―child care commons―を実現するための情報基盤技術構築)。 内閣府・文部科学省が決定した“破壊的イノベーション”創出につながる若手研究者育成支援事業(JST創発的研究支援)によって、日本全国の大学や研究機関などから選ばれた252名の研究代表者のうちの1人。 脳科学から子どもの非認知能力を育てる研究の親子モニター募集 https://gritbrain.wixsite.com/experiment2022-04 東北大学加齢医学研究所 https://www.idac.tohoku.ac.jp/site_ja/ 細田千尋研究室㏋ https://neurocog.is.tohoku.ac.jp/