「新型コロナ」妊婦の不安に産婦人科医が回答 妊娠中のワクチン・出産時の感染・胎児への影響

新型コロナウイルスワクチン令和5年秋開始接種9月20日から 感染症医学に詳しい産婦人科医・茨木保先生に聞く

山口 真央

2023年9月20日から、新型コロナウイルスワクチンの秋開始接種がはじまる(写真:アフロ)

2023年5月から、感染症法上の位置づけが5類感染症に移行した新型コロナウイルス。2023年9月20日からは、新型コロナウイルスワクチンの秋開始接種がはじまります。(※令和5年秋開始摂取

妊娠時に、新型コロナウイルスワクチンを接種しても胎児や母体に問題はないのでしょうか。また、妊娠中に新型コロナウイルスに罹患した場合、どう対処したらよいのでしょう。

コロナ禍に入って4年目を迎える今、最新の知見(2023年9月時点)をもとに、現役の産婦人科医で感染症医学にも詳しい茨木保先生に、妊婦と新型コロナウイルスにまつわる、さまざまな疑問にこたえていただきました。

感染中に出産することになったらどうなる? リスク&対処法を解説

Q.妊娠中や、出産直後の授乳中に、新型コロナワクチンを接種できますか。

A.はい、ワクチンを接種することができます。国内で承認されているワクチンは、妊娠中でも母体や胎児に影響を与えることはない、とされています。私のクリニックでも、ワクチンを打つことを推奨しています。ワクチンの抗体は、胎盤を通して胎児へと移行し、母乳にも分泌されます。赤ちゃんの抵抗力をつけるためにも、ワクチン接種をお勧めしています。

Q.新型コロナウイルスのワクチンは、ファイザー製とモデルナ製がありますが、妊婦に推奨されている種類はありますか。

A.特にファイザー製とモデルナ製の、どちらかを推奨する、ということはありません。いずれのワクチンも、問題なく接種することができます。日本の厚生労働省のみならずWHO(世界保健機関)でも、妊婦が接種するワクチンの種類について、オフィシャルなコメントは出していません。

Q.妊娠中は、新型コロナウイルスに感染しやすくなりますか。

A.妊娠してないときと比べて、新型コロナウイルスの感染率に差はないとされています。産後すぐでも、感染しやすくなるということはないでしょう。

Q.妊娠中や産後に新型コロナウイルスに感染したら、どう対処すればいいですか。

A.まずは、かかりつけの医師に相談しましょう。以前は産婦人科ではなく、発熱外来に行くことをすすめていましたが、5類に移行した現在は、診察できる産婦人科が増えています。

私のクリニックでは、熱が出ている場合、妊娠中でも服用可能な解熱鎮痛剤を処方します。あとは安静にして、自然に体調が回復するのを待ちます。妊婦さんでない方と、同じ療法です。

もし症状が強く出た場合や、赤ちゃんに感染した場合などは、内科や小児科を受診するようにしてください。

Q.妊娠中に新型コロナウイルスに感染した場合、胎児への影響はありますか。

A.新型コロナウイルスが蔓延してから現在まで、胎児に影響があったという報告は、ほとんどありません。心配しすぎないほうがいいでしょう。

Q.妊娠中に新型コロナウイルスに感染した場合、母体にはどんな影響がありますか。

A.女性の身体は、妊娠中に免疫状態や心肺機能がどんどん変化していきます。血液も凝固しやすくなり、血栓症のリスクも増大します。妊娠後期や産後すぐに感染した場合は、重症化するリスクや、早産になるリスクが高まるので気をつけましょう。

喘息など呼吸器系の合併症がある妊婦さんは、さらに重症化のリスクが高まります。自分だけでなく、家族にもしっかりワクチンを打ってもらい、万全の備えをしておいたほうがいいでしょう。

妊娠中は免疫状態や心肺機能が変化していく。妊娠後期や産後すぐに感染した場合は、重症化するリスクや、早産になるリスクが高まる可能性も。かかりつけ医に必ず相談を。(写真:アフロ)

Q.妊娠中でも新型コロナウイルスの検査や、胸部のレントゲン・CT撮影は可能ですか。

A.まず、新型コロナウイルスの検査を受けることで、妊婦さんの体に悪い影響を及ぼすことはありません。また、胸部のレントゲンやCT撮影も、かかりつけの医師が必要があると判断された場合は、受けていただいたほうがいいと考えます。診断レベルの放射線検査が、母体や胎児に影響を及ぼすことはありません。

(※注:通常のX線検査では100mGyを超えることはなく、胎児に影響が及ぶことはない、とされている)
(参考:公益社団法人 日本放射線技術学会 https://www.jsrt.or.jp/data/citizen/housya/housya-05/

Q.新型コロナウイルスに感染した場合の治療薬は、妊娠中や産後も同じものを使用できますか。

A.同じ薬を使用しても問題ないとは言い切れません。他の治療にも同じことが言えますが、妊娠中に服用してはいけない、つまり禁忌とされる薬もあれば、有益投与と言って、薬を飲むことのメリットがリスクを上回る場合は飲むべきとされる薬もあります。

母乳をあげている期間にも、飲まないほうがいい治療薬もありますので、必ず服用前にかかりつけの医師に相談してください。

Q.新型コロナウイルス感染中に出産することになった場合、問題なく出産できるのでしょうか。

A.ケースバイケースですが、予定どおりにならない可能性もあります。新型コロナウイルスに感染していた場合、個室などに隔離する必要が出るケースもあります。症状が強い場合は、帝王切開という選択も出てくるでしょう。

無痛分娩が予定どおりすすめられるかどうかは、産院やスタッフの状況によってもかわってくると思います。担当の医師の判断にしたがいましょう。

Q.出産後に新型コロナウイルス感染した場合、授乳しても問題ありませんか。

A.母乳を通して、ウイルスが赤ちゃんに感染することは、ほぼないとされています。前提として、赤ちゃんに母乳をあげるメリットは非常に高いと言えます。免疫物質が含まれますので、赤ちゃんの免疫力をあげることができます。

お母さんに症状が出ていなければ、マスクと手洗いをしっかりした状態で、直接授乳しても問題はありません。飛沫感染が心配であれば、母乳を搾取して哺乳瓶に入れ、間接授乳するようにしましょう。

母乳を通して、新型コロナウイルスが赤ちゃんに感染することは、ほぼないとされている。マスクと手洗いをしっかりした状態で授乳、もしくは哺乳瓶を使用し、間接授乳をするなど工夫を。(写真:アフロ)

Q.妊娠中や出産後、家族に新型コロナウイルス感染者がでた場合、どう対処すればいいですか。

A.一般的な家庭内の感染予防を心がけてください。感染者とはなるべく接触を避け、可能なら部屋を分けられるといいでしょう。

不安なことがあれば、かかりつけの産婦人科に相談してほしいですが、感染者以外の家族については、症状が出ていないようであれば、すすんで抗原検査を受ける必要まではないと、私は考えています。

Q.自分が妊娠中は、家族や子どもも積極的にワクチンを接種した方が良いですか?

A.日本小児科学会は、生後6カ月~17歳のすべての小児にワクチン接種を推奨しており、妊娠中のご自身の感染予防のためだけでなく、ご家族、お子様の感染予防のためにも、ワクチン接種を受けていただくことは意味があるでしょう。

なお、5〜11歳までは小児用ワクチン、12歳以上は成人用ワクチンを接種します。12歳になりたてのお子様に大人用のワクチンを接種させることに、不安を抱かれる親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、接種するワクチンの種類は有効性と安全性を評価したうえで決定されているので、心配することはありません。

Q.最後に妊娠中の読者に向けて、アドバイスをお願いします。

A.感染症法の位置づけが5類に移行する前は、産婦人科では新型コロナウイルスの患者さんを受け付けることが難しいケースもありましたが、現在では小さなクリニックでも、対応できることが増えました。私のクリニックでは、症状に新型コロナウイルスの疑いのあるの妊婦さんは、診察室をわけて、コロナの検査をすることもできます。

また、この夏にも第9波として流行したオミクロン株は、感染しやすい一方で、重症化するリスクは下がっているようです。ほとんどの患者さんが、対症療法で大きな問題なく快復しているので、心配しすぎる必要はありません。

まずはワクチンをしっかり打つこと。感染してしまったら、焦らずかかりつけの医師に相談し、指示を仰いでください。

●プロフィール
茨木保(いばらき・たもつ)医師・漫画家・医学博士。1962年大阪府に生まれる。1986年奈良県立医科大学卒業。1989年京都大学ウイルス研究所で発癌遺伝子の分子生物学的研究に携わる傍ら、週刊ヤングジャンプ増刊号にSF短編『遠い手紙』を発表しプロデビュー。1999年大和成和病院婦人科部長。2006年いばらきレディースクリニック開設、院長。漫画、イラスト、エッセイ、小説、テレビドラマやバラエティーの制作協力等、メディアと医学の融合に携わるマルチな活動を続けている。『Dr.コトー診療所』『コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命』などヒット漫画、ドラマの監修も担当。著書に『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』など。公式サイト「医学を描く」ibaraki-manga.com

【参考・引用・出典】
・新型コロナワクチンについて(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html
・新型コロナワクチン Q&A(厚生労働省)
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/
・コロナワクチンナビ(厚生労働省)
https://v-sys.mhlw.go.jp/
・妊婦さんの新型コロナウイルス感染症について (国立生育医療研究センター)
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/perinatal/bosei/covid_bosei_kusuri.html
・新型コロナウイルス感染症の主な治療薬の妊娠中の安全性について (国立生育医療研究センター)
https://www.ncchd.go.jp/kusuri/covid19_yakuzai.html
・小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(日本小児科学会)
https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=507

茨木保先生の本

北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす

感染症の歴史を漫画で解説!
医師にして漫画家である茨木保氏が、新紙幣の顔のひとり、北里柴三郎の生涯を描く。各章の冒頭や途中にショートストーリーの漫画(あの世から北里がやってきて現代の子どもたちに講義をする設定)をはさんだり、新発見の原理をイラストで説明したりしながら話を進めるというスタイルで、当時の医学界の状況や、難しい北里の研究内容を理解しやすく紹介。これまでにない、わかりやすく、しかも的を射た北里柴三郎伝の決定版。北里柴三郎は1853年、肥後(熊本県)の生まれ。古城医学校(現・熊本大学医学部)、東京医学校(現・東京大学医学部)を経てドイツに留学。コレラ、結核、脚気という明治時代の国家的な健康問題に立ち向かい、今日まで続く日本の近代医学の基礎を築いた。医学の道に邁進する北里に、次々にふりかかった困難とは――。

まんが医学の歴史

まんがでみるわかりやすい医学の通史、堂々の刊行!
医学の歴史は、人類の誕生とともにはじまり、いつの世もらせん状に続いてきた泣き笑いの人間ドラマがあった。世界初! 臨床医であり漫画家である著者による、まんがでみるわかりやすい医学の通史、堂々の刊行。古代の神々からクローン羊のドリーまで、『看護学雑誌』2003~2005年の連載に大幅描き下ろしを加えた。

まんが 人体の不思議 (ちくま新書1256)

知っているようで、実は知らないことが多い身体のしくみ
たとえば、肝臓はどんな働きをしている臓器か、ぱっと答えられる人は少ないし、ホルモンってよく聞くけど、どの部位から出ていて、どんな働きがあるのか、わからない人も多いでしょう。医学的な話になると、素人には難しくて、手も足も出ないと思いがち。本書は「まんが」で説明しているので、誰にでも理解できるはず。これ一冊読んでおけば、診察室での専門用語にも対応できるでしょう。

いばらき たもつ

茨木 保

Tamotsu Ibaraki
医師・漫画家

医師、漫画家。1962年生まれ。1986年、奈良県立医科大学卒業。同年、奈良県立医科大学 産婦人科医局に入局。1987〜1989年、京都大学ウイルス研究所で発癌遺伝子の分子生物学的研究に携わる。1989年、週刊ヤングジャンプ増刊号にSF短編「遠い手紙」を発表しプロデビュー。以後、数多くの新人賞に入賞。1999年、大和成和病院婦人科部長。2006年、いばらきレディースクリニックを開業。 医師として臨床医学に携わりながら、漫画家・イラストレーターとして医学書・看護学書を中心に活躍。著書に『まんが医学の歴史』(医学書院)、『まんが人体の不思議』(ちくま書房)、『間(あわい)~産婦人科医那須悠介のカルテ〜』(アメージング出版)、『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』(講談社)など多数。医療監修・取材協力したドラマ・映画作品は『Dr.コトー診療所』『コード・ブルー  ドクターヘリ緊急救命』『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』『ルパンの娘』など。

医師、漫画家。1962年生まれ。1986年、奈良県立医科大学卒業。同年、奈良県立医科大学 産婦人科医局に入局。1987〜1989年、京都大学ウイルス研究所で発癌遺伝子の分子生物学的研究に携わる。1989年、週刊ヤングジャンプ増刊号にSF短編「遠い手紙」を発表しプロデビュー。以後、数多くの新人賞に入賞。1999年、大和成和病院婦人科部長。2006年、いばらきレディースクリニックを開業。 医師として臨床医学に携わりながら、漫画家・イラストレーターとして医学書・看護学書を中心に活躍。著書に『まんが医学の歴史』(医学書院)、『まんが人体の不思議』(ちくま書房)、『間(あわい)~産婦人科医那須悠介のカルテ〜』(アメージング出版)、『北里柴三郎 日本近代医学を築いた肥後もっこす』(講談社)など多数。医療監修・取材協力したドラマ・映画作品は『Dr.コトー診療所』『コード・ブルー  ドクターヘリ緊急救命』『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』『ルパンの娘』など。

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。