【発達障害・発達特性のある子】医療機関を受診する目安を「療育の専門家」が解説

#6 医療機関を受診する目安やタイミングは?〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

医療機関でしかできないこと

療育をおこなう機関には、医療機関児童発達支援センター児童発達支援事業所などがあります。

この中で医療機関での療育は、多くの場合、複数の分野の専門職が関わる点に特徴があります。
発達障害の症状はひとりひとり異なるわけですが、それを、医師が中心となって、
●臨床心理士、公認心理師(心理状態を観察し、子どもの心理的側面からの分析や支援)
●作業療法士(身体の使い方、感覚の受け取り方、日常生活動作の視点からの支援)
●言語聴覚士(コミュニケーション、ことばの発達、発音などの専門性からの支援)
などの専門職が、それぞれの視点からその子の特徴を把握し、その子に合った対応をしながら発達を促します。

また、診断名(ASD〔自閉症スペクトラム障害〕、ADHD〔注意欠陥多動性障害〕等)をつけることと、投薬は医師以外はできません。ですから診断名を得る場合と、投薬が必要な場合には、医療機関の受診は必須です。加えて医師は、多くの子どもを乳児期から青年期まで長期間にわたって診ており、豊富な知見と情報を持っています。また発達障害や療育について最新の情報を得ていることも多いのです。それは医師の強みだと思います。

一方、医療機関での療育は、セッションの回数がどうしても少ない傾向があります。なので、医療機関を定期的に受診してセッションを受け、また、医学的知見からのアドバイスを受けながら、並行して、頻回にセッションが受けられる児童発達支援事業所等での療育を受けるパターンも多いです。

どこで療育を受けるかを考える際に、これらのことを参考にしていただければと思います。

診断名は対応を探る「手がかり」

受診すると、医師がさまざまな検査や診察の結果、診断名をつけますが(つかないこともあります)、そもそも診断名をつける意味は何でしょうか?

「診断名」は、この先、多くの人がその子どもに関わり、適切な対応を探るときの「手がかり」です。療育では、子どもの特性を知り、適切な対応をすることが必須です。

診断名があることでその子どもの特性と適切な対応の「傾向」がわかれば、「この子の特性は? 適切な対応は?」ということを、療育に関わる人がそれぞれ一から探らなくてもすみます。その分、すぐに具体的な「適切な対応」を探せる。誤った対応をして子どもとの関係がうまくいかず、再構築に時間がかかるといったことを減らせる。そういうメリットがあるのです。(一方、診断名はあくまで「傾向」であり、子どもの「特性と適切な対応」は「その子」を見ないとわからない、「子どもの特性と適切な対応を診断名で決めつけてはいけない」ことは、子どもに関わる人が常に念頭に置くべきことではあります)

しかし、「だから、ぜひ診断名をつけてもらいましょう」とは言いません。保護者の方の中には、障害児というレッテルを貼られてしまうと不安を抱く方もおられるでしょうし、実際、「診断名がついたときはショックだった」とおっしゃる保護者の方は少なくありません。診断名がつくことで周囲の見方や対応が変わることも悲しいけれど皆無ではないでしょう。過剰診断や誤診も、実際にないわけではありません。

これらのことを考えたとき、医療機関を受診する決断をするかどうか。

悩ましいところではありますが、結局は、保護者が情報を得て選ぶしかありません。医療機関を受診して療育を始めるメリット、診断名がつくことのメリットデメリット。診断名が仮についたとしてその子どもの今の環境でそれがどう受け止められるか。家族、保育園・幼稚園や学校の先生などとの関係は診断名がつくことで楽になる場合もあるでしょうし、そうでない場合もあり得ます。それらを見極め、保護者が子どもにとって一番いいと考える方法を選ぶしかありません。

ただ、時に、周囲の人に強引に受診を勧められ、保護者が納得しないまま受診したというケースを聞きますが、子どもと家族に関わる大切な決断ですから、それは避けていただきたいと思います。

医療機関以外の療育の場所

いろいろ考えた結果、今、医療機関の受診や診断名をつけることには踏み込めない。でも生活におけるさまざまな場面で困っていることはある。その場合、診断名がなくても、療育は受けられます。

児童発達支援センターや児童発達支援事業所などでは、診断名をつけることや投薬はできませんが、それ以外の療育、子どもの特性を理解し、適切な対応をおこなうセッションが受けられます。また、地域の保健センターでも、療育の知識を持つ専門職が在籍していて相談に乗ってくれることがあります。保健師も相談に乗ってくれます。

「ことばが遅い」「落ち着かない」「癇癪が激しい」我が子を目の前に、必死で毎日過ごしていると、この先どうなるのか不安に思うこともあるでしょう。けれど、発達障害があろうがなかろうが、すべての子どもは、自分らしさを大事にし、自分らしさを感じながら、その子らしい生き方をめざすことができます。療育はそのために子どもを適切に理解し、対応しようとするものであり、それには一定の専門的な知識と経験がどうしても必要になります。

ぜひ、無理のないタイミング、そして、相談しやすい場所での相談をして、必要ならば療育にアクセスしてほしいと思います。

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今回は「発達に不安があるときの受診の目安」を原哲也先生に教えていただきました。ことばの発達や落ち着きのなさから、親子ともども「生活のしにくさ」がある場合、医療機関への受診を考えてもよいのかもしれません。また、受診や診断名をつけることにためらいがあっても、療育で支援を受けることができることがわかりました。

次回以降も原哲也先生が「発達障害・発達特性のある子」の子育てのお悩みにお答えしていきます。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」