「子どものためのマイホーム」は本当に正解? 「家づくり」の間違った常識を気鋭の建築家が解明

子ども部屋も、2つ目のトイレもいらない!? 建築家が教える、目からウロコのマイホーム術〔第2回/全3回〕

著者が設計した「非日常を日常に」がコンセプトの住宅。 『家は南向きじゃなくていい』より

「子どもが小学校に上がる前に家を建てたい」

マイホーム適齢期、とでもいうのだろうか。我が家も長子が年中の頃から、この台詞を周囲でよく聞くようになった。「子ども部屋は人数分必要だよね」「毎朝の混雑を考えると、洗面所とトイレは2ヵ所欲しい」

そうして、つい子ども中心の間取りを考えがちになる。そんな考え方にも建築家・内山里江さんは警鐘を鳴らす。「子どものため」の家は必要ない。ぜひマイホーム適齢期の方に読んでほしい。


全3回の2回目

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吹き抜け階段の下が秘密基地に。 『家は南向きじゃなくていい』より

「未来」のために「今」を犠牲にするリスク

──私も長子が小学生に上がるタイミングで実家近くに家を建てました。子どもが男女のこともあり、小さい子ども部屋をふたつ用意しました。しかし小学校高学年になっても、勉強はリビング、子ども部屋にある机もまったく使う気配がありません……。

内山里江さん(以下 内山さん):そうですね、「○○部屋」と、部屋に名前をつけると固定観念ができてしまい、自由な家づくりがしにくいように思います。

その代表格が「子ども部屋」です。まだお子さんがいらっしゃらない状態でも「将来のことを考えて子ども部屋は2つか3つほしい」と望む人はたくさんいらっしゃいます。

しかし、個室を3つつくるのにはかなりの面積を使います。その分、他のスペースが犠牲になったり、広い土地を探さなくてはいけなくなったりして土地代も建築費も多くかかってしまいます。実際にお子さんを2~3人持つかはわからないうえ、個室が必要な期間は中学・高校のだいたい6年程度です。大学まで入れてもマックス10年です。その後、お子さんが巣立ったらその部屋はどうなってしまうのでしょうか。

このように考えると、不確定な未来のために「今」を犠牲にするようにも思え、なんだかもったいない気がしてしまいます。

──しかしその6年の間には、受験があったり、思春期があったり、子どもが1人になれるスペースも必要かと思うのですが……。

内山さん:私が提案しているのは、「将来、子ども部屋としても使える多目的な空間」をつくることです。現時点では壁やドアでセパレートせず、広めのスペースにしておきます。お子さんが生まれたときには人数に応じて家具やパーテーションなどを使って仕切れるような計画を立てつつ、今は広めのフリースペースとして活用するというわけです。

こうしておけば、将来、お子さんが生まれ、さらに巣立った後も、再びフリースペースとして別の目的で使うことができます。趣味を楽しむ場所にしてもよいですし、お子さんが帰省された際の居場所にもなりそうです。来客や、ゆくゆくはお孫さんがいらっしゃったときに使ってもよいですね。家族構成やライフスタイルの変化に応じて自在に活用できます。

読書、勉強、在宅ワークなど、フリースペースなら用途が制限されない。 『家は南向きじゃなくていい』より

広いスペースはいくらでも使いようがありますが、それを2つや3つの個室に分けてしまうと用途はずいぶん制限されてしまいます。このように、名前をつけず、可変性を大事にしたニュートラルな空間の使い方をしたほうが自由な間取りがつくれますし、面積も効率的に使えます。

──そうですね。確かに広ければ小さくはできるけど、小さい部屋は広くはできない、ということでしょうか。我が家も家を建ててから何年も空き部屋状態なのがもったいなかったです。

内山さん:現代の家は気密性に優れており、どこでも冬はあたたかく、夏は涼しく、24時間快適に過ごせます。つまり、わざわざ「子ども部屋」をつくってその中を個別にあたためたり冷やしたりしなくたって、家のどこでも勉強ができるわけです。

みなさんもご経験があると思いますが、いつも同じ場所で作業していると飽きてきてダレてしまいがちですが、場所を変えると集中力が復活することがあります。また、図書館やカフェなど、ある程度の人目があるほうが集中しやすいことも多々あります。このような「場所を変えて勉強する」ことが、現代なら家の中で叶えられるのです。

プライベートのスペースで勉強するのもよし、ダイニングテーブルでしてもよし、階段下のフリースペースでしてもよし。あえて区切った個室をつくらなくても、現代の家ならどこでも快適に勉強ができるのです。

以前は物置にされやすかった階段下。遊び場や勉強場所としても活用できる。 『家は南向きじゃなくていい』より

たとえばこちらは私が実際に設計をした「階段下のフリースペース」の例です。リビングのソファで親御さんがくつろぐ背中の後ろで、子どもが勉強をしたりゲームをしたりできるようになっています。目で見ていなくても、子どもが何をやっているか気配で感じることができるし、いつでも話しかけられます。

階段下のスペースを無駄にせず、特別な空間に仕立てられたので、自分でも満足のいく設計となりました。

「子ども部屋を広くしてあげたい」という親心もよくわかりますが、勉強は家のどこでもできます。「寝るスペースにプラスアルファ」程度の広さでも十分ですのでご安心ください。

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