不登校のキミはどう生きるか? 鴻上尚史が解く「不登校」の背景 学校・教師が抱える問題とスマホの悪影響

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#8‐4 作家・演出家の鴻上尚史さん~学校とスマホ~

作家・演出家:鴻上 尚史

国がお金をケチっている限り教師も子どもも救われない

僕は人生相談(鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋/AERA dot.)を長くやってるんですが、そこに現役の教師からの相談がたくさん来ます。

「私は毎日、生徒の髪の毛が耳にかぶさっているかどうかをチェックしています。自分はいったい何の仕事をやってるんでしょうか」「リボンの幅が2センチじゃなくて3センチだと指導しないといけない。これって教育なんでしょうか」ってね。

じつにまっとうな感覚です。でも、まっとうな感覚を持っている先生ほど、学校という場所の居心地は悪くなります。

教師の仕事がブラック化している実態は、すっかり知られるようになりました。意味がわからない校則で生徒を縛り付けることに疑問を感じてないとしても、上からの意味のない指示や意味のない書類作りに追われて、学校の先生はもうクタクタです。

しかも、親からの理不尽なクレームや、「それは家庭の躾の問題でしょ」と言いたくなるような過大な要求も受け止めなければなりません。

先生にとっても、学校は苦しい場所になっています。その苦しさを生徒にぶつけることもあるかもしれない。よかれと思って、規則や恐怖で生徒を縛り付けるかもしれない。

なるべく時間をかけたくない中で子どもたちをおとなしくさせるには、厳しく管理するのがいちばん効率的です。こんな教育をしてたら、自分の頭で考えられない子どもになっちゃうんじゃないかとか、そんなことを考える余裕はありません。

日本の学校教育がどんどんいびつになって、教師が極限まで追い詰められているいちばんの理由は、国がお金をケチっているからです。今のままでは教師も子どもも救われません。

公的教育費の対GDP比率を比べてみると、日本はなんと132位(2023年/※1)。スウェーデンやアイスランドやアイスランドは7%を越えているのに、日本はわずか3.24%です。

だから、教師はいつまでたっても相対的に低い給与で、たくさんの雑用に追われなきゃいけない。ブラックな仕事であることが知れわたった今では、こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、優秀な若者が選ぶ仕事ではなくなりました。

競争率が下がって、昔に比べて「なりやすい仕事」になったら、ますますいろんな影響が出てくるでしょう。

集団は30人を超えるといきなり狂暴になる

小学校の「30人学級」も、がんばって実施している地方自治体も一部にはありますが、全国的にはやっと「もうすぐすべての学年が35人学級になります」という段階です。

演劇をやってきたからわかるんですけど、ワークショップにしても何かの集団にしても、30人を超えると急に凶暴になるんです。

全体の雰囲気が何となくすさんで、お互いに相手の失敗を笑い合う。他人のミスを許さない不寛容な世界になるんです。今日は和気あいあいとしているなと思って数えてみると、27~28人だったりするんですよね。

自分でいうのも何ですが、僕はベテランのワークショップリーダーなので30人がひとつの境目になる。経験の浅い人だったら20人が限界じゃないかな。

20人までなら、ひとりひとりに目が届くし、きめ細かく対応することもできる。大人ばっかりの集団でもそうなんだから、子どもはなおさらでしょうね。

文部科学省にお金がなくて日本の学校が35人学級を続けていることと、不登校が増え続けていることとは、深い関係があると思います。

30人学級でもまだ多い。欧米諸国は10人台~20人台前半です。そうなれば子どもにとっても先生にとっても、学校が今よりもずっと居心地のいい場所になるでしょう。教師のブラックな労働環境も改善します。

こういうことを言うと、「昔はひとクラス50人ぐらいいたけど不登校はいなかった」なんて“反論”があるかもしれない。社会状況がぜんぜん違う今、どうすれば不登校を減らせるかという話をしているときに、「昔はひとクラス50人ぐらいいた」と言ったところで何の意味もありません。

ひとクラス50人に戻せば不登校がなくなるとは、誰も思わないですよね。揚げ足取りが好きな大人が増えたのは、ネット社会の弊害かもしれません。

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