猫絵本ブームに物申す!?
さらに、脇役として登場する動物も、ウシガエル、ヘビ、ワシ、と、なかなかメインキャラになりにくい、バイプレーヤー的な動物ばかり。ウシガエルに至っては、日本にははじめ食用として輸入されたにもかかわらず、今では在来種に害をおよぼすとして、特定外来生物に指定されてしまっているのです。
「ひげがあってうろこがない独特な姿をしたナマズと、おたまじゃくしでも10cm以上になり牛のような声で鳴くウシガエル。可愛いなと感じる方もいる一方でギョッとされる方も多い生き物なので、何となくユーモアがある表情にし、親しみを感じてすんなりとお話に入ってもらえるように心掛けました。」(西野沙織さん)
西野さんは、サンリオキャラの「シャケのきりみちゃん」の絵本も手がけ、ひとクセあるキャラもかわいく描き出せる作家さんです。彼女にかかれば、ナマズがこんなにも愛らしく描かれ、その喜怒哀楽が読んでいるこちらにしっかり伝わってきて、きゅーんとしてしまいます。
「違っていても仲間になれる」 今日的なメッセージ
ひとりぼっちでさみしかったナマズは、自分にそっくりのおたまじゃくしたちから「にいさん」と慕われるようになります。一緒に助け合いながら、たのしいひと時を過ごしていたのですが……。
「童謡『お玉杓子は蛙の子』の歌にもあるように、大型のカエルのおたまじゃくしの姿形がナマズに似ているなぁと思った時、卵からかえったおたまじゃくしがナマズを見て勝手に親だと思い込み、慕ってあとを追い、ナマズも子育てを愉しむと言う様な話を描いてみようかと。
ただ、その場合おたまじゃくしが変態したらどうなってしまうのだろう?とか考えているうちにこうなりました。」(穂高順也さん)
画家の西野さんはこんな場面に遭遇したそうです。
「ある日散歩をしていたら、たまたま近くの川にいたウシガエルのおたまじゃくしに会うことができました。
おちょぼ口で、小さな足が生え始めたおたまじゃくしでした。同じ川には小さなナマズもいて、人間でいうと小学5年生くらいのナマズだと、そこにいた方に教えてもらいました。メダカを捕りにきたら、偶然おたまじゃくしやナマズも網にかかったのだそうです。
あのナマズとおたまじゃくしは、今頃どうしているのか気になります。」(西野沙織さん)
きむらゆういち×あべ弘士の名作『あらしのよるに』では、狼と羊の友情が描かれました。もちろん、あくまでお話や絵本の中でのファンタジーですが、同じ種でなくても仲間になれる、というのはとても今日的なメッセージに思えます。
そして、ナマズとおたまじゃくしに、別れがおとずれます。
孤独のなかにあっても
でも、すこしも さびしくは ありません。
すがたかたちが ちがっても、
はなれた ばしょに くらしていても、
なまずには たくさんの きょうだいが いるからです。
今、会えなかったり一緒にいられなかったりすることも多いけれど、まずできることは心で想い、つながること。そんなことをこの絵本は教えてくれているのかもしれません。
蛇足ですが、英語でナマズはcatfish。もしかしたら、猫絵本ブームの大本命だったりして……。
著者紹介
穂高順也
1969年、愛知県生まれ。保育専門学校卒業後、幼稚園・保育圏勤務を経て絵本作家・童話作家に。主な絵本に『さるのせんせいとへびのかんごふさん』『へびのせんせいとさるのかんごふさん』(絵・荒井良ニ ビリケン出版)、『ぼくのえんそく』『ちゅうしゃなんかこわくない』(絵・長谷川義史 岩崎書店)、『どろぼうだっそうだいさくせん!』(絵・西村敏雄 偕成社)、文・絵を担当したものに『あおいでんしゃにのって』(日本標準)などがある。
西野沙織
1977年、静岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。広告会社勤務ののち、イラストや絵本を描く。手触りが感じられるような温かみのある作品づくりを目指している。絵本に『プンとフォークン』(教育画劇)、『えほんKIRIMIちゃん.わ たしシャケのきりみちゃん』(岩崎書店)がある。神奈川県在住。
幼児図書編集部
絵本をつくっている編集部です。コクリコでは、新刊の紹介や作家さんのインタビュー、イベントのご案内など、たのしい情報をおとどけします! Instagram : @ehon.kodansha Twitter : @kodansha_ehon
絵本をつくっている編集部です。コクリコでは、新刊の紹介や作家さんのインタビュー、イベントのご案内など、たのしい情報をおとどけします! Instagram : @ehon.kodansha Twitter : @kodansha_ehon