シリーズ累計10万部“季節の絵本”を生み出した作家・えがしらみちこの、これまでとこれから

えがしらみちこさん『あめふりさんぽ』10周年記念インタビュー

ライター:加治佐 志津

春、夏、秋、冬の風物詩を描き込む

──その後、続編として『さんさんさんぽ』『ゆきみちさんぽ』『はるかぜさんぽ』『あきぞらさんぽ』が出版されました。制作エピソードを聞かせていただけますか。

編集者さんが、他の季節もやりましょうと言ってくれたんですね。それで最初、春のお話として、擬人化された靴と一緒にお散歩に出かける『てくてくさんぽ』というのを考えたんですけど、ファンタジー要素が強すぎるってことでボツになって。別の案で考え直して、飛ばされた帽子を追いかける『さんさんさんぽ』を作りました。麦わら帽子、ひまわり、セミ、海など、夏の風物詩をたっぷり盛り込んで、夏らしい一冊に仕上げています。

『ゆきみちさんぽ』では、初めてお母さんを登場させました。『あめふりさんぽ』と『さんさんさんぽ』では、女の子がひとりでお散歩しているんですが、冬の寒くて心細いときは、きっとお母さんに迎えに来てもらいたいよなぁと思って、最後の見開きにお母さんを描いています。

私は生まれ育ちが九州、今は静岡県三島市在住で、あまり雪には馴染みがないんですが、冬の北海道を旅行したときに見た雪景色を思い出しながら描きました。しんと静まりかえった銀世界に、雪を踏みしめる音や降り積もった雪が落ちる音、つららが解けて水が垂れる音など、さまざまな音が響いているイメージです。

『はるかぜさんぽ』は、ふわふわ飛んでいく綿毛をつかまえようとしたら、お花畑からちょうちょがたくさん羽ばたく……というシーンが最初に思い浮かんで、そこからイメージを膨らませてお話を作っていきました。シャボン玉やダンゴムシなど、「ちょんちょんちょん」と触って変化するものを中心に描いています。最後は女の子が逆に「ちょんちょんちょん」とされるといいね、と編集者さんと話して、猫のしろちゃんが迎えに来るというラストにしました。

『あきぞらさんぽ』では、落ち葉をたくさん描きました。たくさんの落ち葉を1枚1枚描いていくのは、大変だけど楽しくて好きなんですよね。最後の落ち葉と秋の夕暮れのシーンは、自分でも満足のいく出来になりました。シリーズ最後にお父さんも登場させることができてよかったです。

──季節ごとの、女の子のファッションもとてもおしゃれですよね。

お洋服、好きなんですよね。それぞれの季節に合わせて、こんな服あったらかわいいな、娘にも着せたいな、なんて思いながら描いていました。Instagramのフォロワーさんで、『さんさんさんぽ』と『はるかぜさんぽ』のワンピースを実際に作ってくださった方がいらっしゃって。娘さんのために手作りされたそうです。すごくかわいくて、うれしくなりました。
原画を乾かすためのピンチや、絵の具の色の出方を表にしたものなども、さりげないインテリアのよう。
書棚の上には、かわいい小物がたくさん並んでいます。

祖母から教わったこと

──梅雨にはあじさい、夏はひまわり、春に桜。それ以外にも、「おさんぽ」シリーズにはたくさんの植物が描かれています。

ツユクサ、オオバコ、ネジバナ、ナズナ、カラスノエンドウ、ヒナゲシなど、特に『さんさんさんぽ』と『はるかぜさんぽ』には野の花をたくさん描きました。植物を描くのは好きなので、楽しんで描いていましたね。

私は草花の名前を、子どものころにおばあちゃんから教わりました。一緒にお散歩すると、「木蓮の花がきれいに咲いてるねぇ」みたいな感じで、指さして次々と教えてくれて。大学生になるころまで、草花の名前は知っていて当然と思っていたんですが、あるときみんな意外と知らないんだなと気づいて驚いたんです。ああ、おばあちゃんがお花が好きだったからかと腑に落ちました。

おばあちゃんは夕焼けを見るのもすごく好きで、「ほら、きれいだよ、見てごらん!」とよく声をかけてくれました。そうやって孫の私にきれいなものをたくさん見せようとしてくれていたんでしょうね。

私が同じことを娘にできているかはわかりませんが、「おさんぽ」シリーズは季節の移ろいを感じられるようにという願いを込めて描きました。読者のみなさんが、絵本と実際のお散歩をリンクさせながら、それぞれの季節で出会える草花や生き物に興味を持ってくださったらいいなと思います。
野の草花を描きとめたスケッチブック。
──『あめふりさんぽ』出版10周年を記念して、2024年10月には「おさんぽ」シリーズのセットボックスが発売されるそうですね。

『あめふりさんぽ』『さんさんさんぽ』『ゆきみちさんぽ』『はるかぜさんぽ』『あきぞらさんぽ』の5冊がセットになっています。5作分のさまざまなアイテムの柄をちりばめたボックスに入っています。

──5冊セットで手元にあれば、どの季節からでも読めていいですね。

ご自宅用のほか、プレゼントなどにも活用していただけたらうれしいですね。
まだダミー状態のボックスを確認中。「おさんぽBOX」の詳しい情報は、また「講談社えほん通信」にてお知らせいたします。
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