本当に気になる育児の悩み「2歳の子どもの言葉が遅いのが気になる」

子育てお悩みランキング12を多角的に検証! 第2回 高祖 常子先生/井澗知美先生

げんき編集部

続いては、大正大学心理社会学部 臨床心理学科教授で、公認心理師・臨床心理士の井澗知美先生の回答です。
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井澗知美先生

言葉より前に、コミュニケーションができているかが重要

「言葉が遅い」という相談はよくあります。それだけ親御さんにとって気になる発達の指標なのでしょう。でも実は、「話す」「話さない」以前に、コミュニケーションができるか否かのほうが重要です。言葉は、あくまでそのための手段の1つとしてあるということを、まず覚えていてください。

きちんとした言葉でなくても、「あー」とか「うー」という喃語やジェスチャー、身振り手振り、視線でやりとりができているか否か。それこそが大切なんです。自分の言いたいこと、びっくりしたこと、知りたいことなどを、何らかの方法でママ・パパに伝えようとしていますか? 

一般的には、2歳だと子どものほうからしょっちゅう話しかけてきたり、親の注意を引こうとしたり、放っておいてくれない年齢です。もしそういった行動がみられているようだったら、それにママ・パパから言葉を足して応答しながら、言葉が出てくるのを待ってみてもいいのではと思います。
言葉でなくとも、喃語や音声、ジェスチャー、身振り、視線でやりとりできていればひとまず安心
反対に、「子どもが何を伝えたいのかよく分からないし、こちらが言っていることも通じない」といったときは、少し注意が必要かもしれません。そもそもママ・パパとお子さんって、言葉がなくてもなんとなくコミュニケーションができるものだからです。

ママが呼びかけたら、赤ちゃんが手を動かしたり、「あーあー」とか言って返事のようなやりとりをするのを、公園などで見かけることも多いですよね。そうやって、言葉が出る前から親子の間ではコミュニケーションが行われているのです。

「なんだか全然通じ合わないし、宇宙人を育てているみたい」と感じてしまうような状態だと、親御さんも言葉のことで悩む以上に、子育てが辛くなってしまうかもしれません。

ほかの子どもと比べて自分を責める前に相談を

さらに、ほかの親子がやりとりできているのを見て、「自分の接し方が悪いんじゃないか」「自分が子どもを受け入れていないからいけないんじゃないか」と悩まれる方もいらっしゃると思います。

現代は育児雑誌なども数多くあり、「絵本を読み聞かせましょう」とか、いろんな指南が書いてありますよね。そういった情報に触れることで、余計に自分を責めてしまうママ・パパも多いものです。

でも、そんなに一生懸命にならなくても、普通にバランスよく発達している子どもだったら、幅はありますが、自然に言葉がでてくるものです。「親の対応が悪いから言葉が遅い」ということは、よほどのことがない限りありません。

子どもの伸びようとする力はたくましいものです。ですから悩んで自分を責めるぐらいだったら、早めに相談にいくことをおすすめします。相談先は、1歳半健診を受けられた公共の保健施設などでしょうか。

そういったところには臨床心理士さんや、発達に詳しい保健師さんがいらっしゃることが多いので、まずは気軽に相談してみてください。
ママ・パパは自分を責めずに専門家に相談しよう

「対人関係を築く力」を発達させることを意識して

ご家庭で発語を促したいときには、「対人関係を築く力」を発達させる意識で取り組むこともポイントです。そのためには、まずはママ・パパから声をかけたり、働きかける回数を増やすことです。

なかには、自分からの親に対する働きかけが少ないお子さんもいます。一人でずっとテレビやタブレットを観させていても平気な子もいます。でもそこで、「うちの子は静かでいいわ。手がかからない」と思ってはいけません。それでは、いつまでも対人関係が築く力が発達しません。そして、それに伴って、言葉も育っていかないのです。

どうぞ、リアルなコミュニケーションをする機会を増やしてあげてください。

それから、お子さんに話しかけるときに、穏やかでいることも大切です。親御さんが言葉の発達を気にするあまり、うるさく言いすぎたり、イライラしてしまうといったケースもときどき聞きますが、そうなると逆効果に……。話をすることが嫌になりますよね。
ママ・パパから話しかける回数を増やそう
もう1つ、注意したいのが、ママ・パパばかり話して、子どもは話さなくていい状況になってしまうことです。子どもから要求しなくても、「これでしょ?」「あれでしょ?」と先回りして全部叶えていては話すチャンスがなくなります。

また、ママ・パパばかりが話していたら、子どもが自分から話すスペースがなくなってしまいます。コミュニケーションは基本、双方向のやりとりです。たとえ言葉になっていなくても、まずは子どものメッセージをきちんと受け止めてあげることを意識してみてください。

「問題」ではなく多様性。その子なりの成長を見守って

もし専門機関に相談に行かれて、自閉症などの発達障害の診断が出たとしても、あまりそれを「問題」だと考えないことも重要だと思います。人間の発達はそもそも多様なものですから、何が正しい、間違っている、というものではありません。

どんな発達の仕方であったとしても、ゆっくりでも、人は成長していくものです。育児の大前提は、その子が安心して育っていける環境を用意してあげることです。そして、親御さんも安心してお子さんに向き合えていることです。

発達障害などの診断が出たら、どのような関わりをすることが安心して育つ環境になるのかを学んで、子育てに役立ててください。

「話す」「話さない」は目立つ発達の指標ですが、早く話せたらいい、たくさんしゃべったからいい、というものではありません。大切なのは、安心して発達していく環境を作ることです。

一人であまり悩まず、専門家のアドバイスを受けながら、その子なりの成長を、温かく見守ってあげてください。
文・構成/笹間聖子 写真提供:ピクスタ
人間の発達はそもそも多様なもの。その子なりの成長を温かく見守って

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こうそ ときこ

高祖 常子

子育てアドバイザー・キャリアコンサルタント

リクルートで学校・企業情報誌の編集にたずさわったのち、2005年に育児情報誌miku編集長に就任し14年間活躍。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事ほか各NPOの理事を務める。「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省2019年度)でガイドライン策定委員ほか、国や行政の委員を歴任。子育てと働き方などを中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。 保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級など子育てに関連する資格を多数取得。 東京家政大学短期大学部保育科卒、第9回渡邉辰五郎奨励賞受賞。 著書は『イラストでよくわかる 感情的にならない子育て』(かんき出版)、『こんなときどうしたらいいの? 感情的にならない子育て』(かんき出版)、『男の子に厳しいしつけは必要ありません』(KADOKAWA)ほか。 3児の母。 ●高卒常子オフィシャルサイト ●Twitter @tokikok  

リクルートで学校・企業情報誌の編集にたずさわったのち、2005年に育児情報誌miku編集長に就任し14年間活躍。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。 認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事ほか各NPOの理事を務める。「体罰等によらない子育ての推進に関する検討会」(厚生労働省2019年度)でガイドライン策定委員ほか、国や行政の委員を歴任。子育てと働き方などを中心とした編集・執筆ほか、全国で講演を行っている。 保育士、幼稚園教諭2種、心理学検定1級など子育てに関連する資格を多数取得。 東京家政大学短期大学部保育科卒、第9回渡邉辰五郎奨励賞受賞。 著書は『イラストでよくわかる 感情的にならない子育て』(かんき出版)、『こんなときどうしたらいいの? 感情的にならない子育て』(かんき出版)、『男の子に厳しいしつけは必要ありません』(KADOKAWA)ほか。 3児の母。 ●高卒常子オフィシャルサイト ●Twitter @tokikok  

イタニ トモミ

井澗 知美

公認心理師、臨床心理士

大正大学心理社会学部臨床心理学科教授。公認心理師、臨床心理士。 上智大学文学部心理学科、早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了後、国立精神・神経センター精神保健研究所児童思春期精神保健部の流動研究員としてADHDの臨床研究をチームで行う。研究所に在籍している際に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にてペアレントトレーニングの研修を受け、我が国におけるペアレントトレーニングプログラムの開発にたずさわる。その後、中央大学大学院博士課程でペアレントトレーニングの有効性に関する研究に取り組み、学位を取得。 専門は発達臨床心理学で、早期介入や地域での発達支援に関心をもつ。ここ数年は幼児期から思春期の子どもの発達支援を中心に取り組んでいる。本書でも紹介した自閉症スペクトラム症の早期介入法であるJASPERの認定セラピストの資格を取得し、大学内の相談室や小児科クリニックで実践をしている。

大正大学心理社会学部臨床心理学科教授。公認心理師、臨床心理士。 上智大学文学部心理学科、早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了後、国立精神・神経センター精神保健研究所児童思春期精神保健部の流動研究員としてADHDの臨床研究をチームで行う。研究所に在籍している際に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にてペアレントトレーニングの研修を受け、我が国におけるペアレントトレーニングプログラムの開発にたずさわる。その後、中央大学大学院博士課程でペアレントトレーニングの有効性に関する研究に取り組み、学位を取得。 専門は発達臨床心理学で、早期介入や地域での発達支援に関心をもつ。ここ数年は幼児期から思春期の子どもの発達支援を中心に取り組んでいる。本書でも紹介した自閉症スペクトラム症の早期介入法であるJASPERの認定セラピストの資格を取得し、大学内の相談室や小児科クリニックで実践をしている。