「胎動」赤ちゃんが「動かない」のは大きな危険の可能性も? 名専門医が解説
産婦人科医・安達知子に聞く「妊娠中に注意したい症状」 #3 胎動の変化はなぜ起こる?
2023.11.18
総合母子保健センター愛育病院名誉院長:安達 知子
妊娠中、胎動を感じると赤ちゃんの存在をより身近に感じられ、会える日が待ち遠しくなるもの。
しかし、いつもの胎動と様子が違うことで、赤ちゃんの異常に気づけるケースもあります。胎動が示す赤ちゃんの状態と、注意したい胎動の変化について、愛育病院名誉院長・産婦人科医の安達知子先生にお話を伺いました。
安達知子(あだち・ともこ)
総合母子保健センター 愛育病院名誉院長。東京女子医科大学客員教授。東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局。米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員、東京女子医科大学産婦人科助教授を経て、2017年より愛育病院院長、2022年名誉院長に就任。日本の産科学界を担う中心的存在の一人。
目次
胎動を感じる時期は個人差が大きい
胎動を感じる時期は、だいたい妊娠18~20週ごろです。個人差が大きいため、妊娠16週から感じる人も、20週を過ぎても胎動がわからないケースもまれにあります。特に初産婦さん(初めて出産する人)の場合、胎動のイメージがつかないことも少なくありません。
妊婦健診に訪れた妊婦さんに「赤ちゃんが動くのがわかりますか?」とたずねても、「わかりません」と答えられることもしばしば。「おなかの中で腸がコポコポと動くことはありませんか?」とたずねると、「それだったらわかります!」とイメージしていた胎動とは違って驚かれることがあります。
また、胎動の感じ方も人それぞれです。ひどい便秘でおなかにガスが溜まっている場合や、お母さんが肥満である場合、胎動を感じにくくなることがあります。仕事や環境の変化など気を取られていることが多いと、赤ちゃんに注意が向かず胎動に気づかないことも。
私自身も妊娠中、仕事が忙しくてなかなか気づかず、2人目の妊娠であったのに、妊娠20週を過ぎてから「あ、胎動だ」と気づいたエピソードがあります。
このように胎動の感じ方は人それぞれなので、18~20週で胎動を感じないからおかしいということはありません。
赤ちゃんが深く眠っているときは胎動が少ない
おなかの中の赤ちゃんは「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」を繰り返しながら、ずっと眠っているといわれています。レム睡眠は、大人でいえば浅い眠りで夢を見ている時で、寝言を言ったり寝返りしたりしている状態ですね。レム睡眠の時間は、胎児や新生児は大人と比べて長く、特に胎児は夜間にこの睡眠が多く、お母さんが休んで活動していない時間帯ですので、酸素をたくさんもらうことができて、神経などの形成や発達に大切なのです。
おなかの中の赤ちゃんもレム睡眠のときによく動くので、胎動として感じやすくなります。反対に、ノンレム睡眠のときには深く眠っているため、胎動を感じにくいでしょう。レム睡眠とノンレム睡眠があることで、胎動が活発なときと静かなときがあるのです。
病気が理由で胎動が少ないケースも
胎動が少ない状態が続くときに考えられる理由としては「胎児胎盤機能不全」や「赤ちゃんの先天性筋ジストロフィーや消化管閉鎖などの異常」「羊水過多や羊水過少」などが挙げられます。
胎児胎盤機能不全は、胎盤の機能が大きく低下して赤ちゃんがしんどくなっている状態で、胎動も減ります。
また、胎児胎盤機能不全では羊水の量が減り「羊水過少」となることも。羊水は大部分が赤ちゃんの尿なのですが、赤ちゃんの状態が良くないと尿量が減って羊水も少なくなります。羊水が少なすぎると赤ちゃんが動きにくくなるため、胎動が少なくなる一因になります。
先天性筋ジストロフィーは筋肉の病気で男の子に多いのが特徴です。筋肉の病気があると、筋力そのものが弱いため、どうしても胎動が少なくなります。また、赤ちゃんは羊水を飲んで排尿したり、吸収した水分を臍帯から胎盤を介して母体に送ったりしながら、羊水量を調節していますが、筋ジストロフィーがあると嚥下する筋力が弱いため、また、消化管が閉鎖する異常では羊水が消化管から吸収されないために、羊水過多となり胎動を感じにくくなります。
胎動をカウントすることで異常に気づくきっかけになることも
赤ちゃんの状態を知るにはNST(ノンストレステスト:ストレスのない状態で赤ちゃんの心拍とお母さんのお腹の張りをモニターしてそのパターンで赤ちゃんの元気度をみる検査)をとるのが大事なのですが、病院でないとできない検査です。
そこでお母さんが自分でできる方法として、「10(テン)カウント法」という胎動をカウントする方法があります。10カウント法は、赤ちゃんが10回動くまでにどれぐらいの時間がかかるかを測る方法です。妊娠高血圧症候群である場合や、赤ちゃんの成長が良くない場合に、10カウント法を指導された人もいるかもしれません。
もちろん妊娠初期は胎動がわかりませんし、妊娠20週ぐらいだと1日に1回くらいしか胎動がわからない人もいます。目安として妊娠30週を過ぎたら、赤ちゃんが10回動くまでにかかる時間を一度測ってみるといいですね。
「この子は10回動くまでに30分かかるんだ」などと確認しておくことで、もし胎動が少ないと感じたときに比較できます。もし1週間後に1時間かかっていたら「赤ちゃんの状態が良くないかもしれない」と気づけるかもしれません。
今までと比べて胎動が少ないと感じたり、妊娠32~33週以降で2時間経ってもほとんど胎動がなかったりしたときには、病院に連絡しましょう。病院でNSTや超音波検査をすれば、赤ちゃんの状態をしっかり確認できます。
胎動が少ないときには一度横になってみる
「胎動が少ないかも」と感じたら、まずは横になってゆっくりしましょう。横になることで胎動を感じやすくなります。右向きになったり、左向きになったり、体勢を変えてみて胎動が増えるかを確認してください。胎動が少ない・感じられないままの場合には病院に連絡しましょう。
胎動の変化以外に出血やお腹の痛みなどの症状がある場合には、すぐに病院に連絡することが大切です。常位胎盤早期剝離(本来、胎児を出産した後にはがれるはずの胎盤が妊娠中にはがれる状態)などで、赤ちゃんが低酸素になっている可能性があります。
赤ちゃんの成長が遅くなっている、羊水が少ない、妊娠高血圧症候群であるなど、妊娠経過になんらかの異常がある場合に胎動の異常を感じた場合も、すぐに病院に連絡するようにしましょう。
「気のせいかもしれないけれど、連絡していいのかな?」と、病院へ連絡するのを迷ってしまうかもしれません。しかし、心配でストレスを感じるぐらいなら病院に連絡してください。
胎動の異変を感じて病院を受診することになったけれど、受診に向かう途中で元気に動き出したというケースも実際にあります。そうなれば「異常がなくてよかったですね」となるだけなので、気にしすぎないでください。
夜間に受診する場合は入院する準備を
夜間に胎動の異常を感じて受診することになった場合、検査して異常がなくても、念のため1泊入院になることがあります。
夜間の受診では、違う医師が対応することもあるので、医療者側からも入院して朝まで様子を見たほうが安心という場合もあります。
夜間に受診する際には、入院するつもりで来院してもらえればと思います。
日ごろから助産師と情報を共有しておくと安心
妊娠中・出産時も含めて、普段から助産師さんに心配なこと・不安なことを伝えて指導してもらうことが大切です。医師は医学的な内容をポイントポイントで助言しますが、具体的な指導が不十分なことがあります。
例えば、医師から「安静にしてください」と言われたとき「安静にするとはどうすればいいのか」「外出してはいけない程度なのか」「家で横になっておいたらいいのか」など、具体的にどうすればいいかわからないこともあるでしょう。
そんなとき、助産師さんは親身になって教えてくれるはずです。心配なこと、不安なことは妊娠中にどんどん出てくると思うので、健診のときなど助産師さんに普段から気持ちを共有してもらえればと思います。
それでもわからないこと、不安なことがある場合には、遠慮なく病院に電話してもらってかまいません。そして、来院することになれば、入院の可能性があることを知っておいてください。
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全3回にわたり、妊娠中に気を付けたい症状について安達先生に教えていただきました。
「個人差が大きく、95%大丈夫! 99%大丈夫! と言われていても、ごくまれになにかあるのが妊娠・出産です」と安達先生。
妊娠中の症状について知っておくことは、赤ちゃんやお母さんの命と健康を守るためにとても大切なこと。お父さんや家族とも母子のからだの情報を共有し、もしものときの対応法を話し合っておきましょう。
取材・文 広田沙織(メディペン)
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メディペン
医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen
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安達 知子
総合母子保健センター 愛育病院名誉院長。東京女子医科大学客員教授。 東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局。米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員、東京女子医科大学産婦人科助教授を経て、2004年より愛育病院産婦人科部長、2017年より同病院院長に。2022年より愛育病院名誉院長に就任。日本の産科学界を担う中心的存在の一人。
総合母子保健センター 愛育病院名誉院長。東京女子医科大学客員教授。 東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局。米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員、東京女子医科大学産婦人科助教授を経て、2004年より愛育病院産婦人科部長、2017年より同病院院長に。2022年より愛育病院名誉院長に就任。日本の産科学界を担う中心的存在の一人。