昆虫図鑑ばかり5冊あってもいい 子どもの“好き”が「調べる習慣」に変わる

図鑑マニア・斎木健一先生インタビュー 第3回/図鑑の選び方・使い方

息子さんたちとの家族旅行では「旅先でどんな虫を捕まえるか、魚を釣るか、何ヵ月も前から仕掛けを作って、全力で楽しみました」と、子育てを振り返ります。
写真:小松貴史
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1800冊以上の図鑑を所有する“図鑑マニア”として、メディアにも多数出演されている、「千葉県立中央博物館 分館海の博物館」分館長の斎木健一先生。第2回では、子どもを図鑑好きにさせるコツ、図鑑を取り入れた自身の子育て経験についてお話いただきましたが、今回のテーマは、図鑑の選び方と活用法について。誰でもマネできるヒントが満載です。

昆虫が好きなら「昆虫図鑑を5冊」持っていてもいい

――<図鑑ブーム>ということもあり、本屋に行けば、たくさんの図鑑が並んでいます。その中から、図鑑を選ぶとき、買うときのポイントを教えてください。

まず、前回も少しお話しましたが、親が無理強いをしないで、子どもの好きなジャンルを優先して選ぶことが第一です。どんなものに興味があるのか、子どものことをしっかり見て選んでほしいですね。親子で一緒に選ぶのもよいと思います。
第2回『子どもを「図鑑好き」にする方法』を読む

よく『MOVE』(講談社)なら『MOVE』、『NEO』(小学館)なら『NEO』と、同じシリーズで揃えたいという親御さんがいらっしゃいますよね。実は多くの学習図鑑は、同じシリーズでもそれぞれ編集者が違い、1冊1冊に個性があります。<このシリーズの植物が気に入ったから、昆虫も気に入る>とは限りません。

それに、シリーズで揃えるということは、中には子どもの好みじゃない図鑑も出てきます。「恐竜はいらないから、昆虫の図鑑をもう1冊欲しかったな」という子どももいるでしょう。昆虫が好きな子は、4冊でも5冊でも、あらゆる昆虫の図鑑が欲しいのですから(笑)。

図鑑は高価なものです。せっかく買ったのに読んでもらえなければ親は悲しいし、子どものほうも興味のない図鑑が増えると、いずれ図鑑そのものに飽きてしまいます。そこで、僕がおすすめするのは、毎月1冊でも数ヵ月に1冊でもいいので、<子どもの好きな図鑑を買ってあげる日>を作ること。そのときは、「また虫の図鑑? この間も買ったのに」などと言わずに、子どもの気持ちを尊重してあげてほしいなと思います。
図鑑はあくまでも、楽しい「趣味」。「お勉強」ではないのですから。

「中には、同じシリーズの図鑑を揃えたいという子どもも、もちろんいます」と、斎木先生。そのため、わが子がどんなタイプなのか、日ごろから観察しておくことが大切だといいます。
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読む絶好のタイミングは“実物”に出会う前と後

――図鑑は、どんなときに読むのがおすすめでしょうか。

タイミングといいますか、調べる先の“もの”を中心に考えるのがいいと思います。<動物園や博物館に図鑑を持参すると楽しい>という話も聞きますが……持ち歩くのは、やっぱり重いですよね(笑)。それに、博物館で働く“博物館人”の僕としては、博物館に来たら、展示してある実物を見てほしいのです。動物園の方も、きっと同じ気持ちだと思います。

動物園や博物館の悩みは、実物が展示してあるのに、解説文ばかり読んで次へ行ってしまう人がいること。図鑑を持っていたら、それを助長してしまいます。せっかく目の前にライオンがいるのに、解説文や図鑑を読んでいるなんて、もったいない!

図鑑を読むのは、まず、動物園や博物館へ行く前がおすすめです。事前に何も情報がないと、どこを見ていいのかわからずに、ゾウは「大きいな」、キリンは「首が長いね」で終わってしまいます。でも、前もって図鑑を読んでおくと、「ゾウはこうやって水を飲むんだって。見られるかな?」「キリンが食べている姿を見てみよう」と、注目するポイントがわかりますよね。そうして、現場では実物に集中する。図鑑よりも、実物を見る方がうんと楽しいのですから。

家に帰ってきてから、図鑑を見るのもおすすめです。動物でも植物でも、気になったものがあれば、名前を控えたり写真を撮ったりしておきましょう。<予習・復習>というと、「お勉強」のような表現なので避けたいのですが、要は“実物”に出会う前と後。実物をより楽しむために、図鑑を活用するといいと思います。

息子さんたちと虫捕りへ出かけると、家に帰ってから図鑑を開き、「子どもたちが捕まえた虫の飼い方を調べていました」と斎木先生。
写真:小松貴史

大事なのは<調べて知識を得る習慣>をつけること

――図鑑によって、好きなものが、より好きになりますね。

そうですね。好きなものに集中するクセがつけば、それで十分だと思います。図鑑を読んで、調べて、知識を得る。小説や漫画といった創作物を読むのとは、また違った体験です。図鑑はそこで完結する世界ではなく、実物とつながっています。

たとえば、お菓子の図鑑を開いて「こんなお菓子があるんだ!」「おいしそう、食べてみたいな」と、新しいことを知るだけでもいいし、そこから「作ってみたいな」「作り方を調べてみよう」となったら、ものすごい進歩です!
自分で知識を広げる習慣をつけることこそが、大事ではないでしょうか。



取材・文/星野早百合

#1 斎木健一「子育て世代が知らない“進化系図鑑”の世界」
#2 斎木健一「子どもを“図鑑好き”にする秘訣とは」

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さいき けんいち

斎木 健一

千葉県立中央博物館 分館海の博物館分館長

1962年、神奈川県生まれ。「千葉県立中央博物館 分館海の博物館」分館長。所有する図鑑は1800冊以上。 TBS系テレビ番組『マツコの知らない世界』では、“図鑑の世界”の案内人を務めるなど、メディアにも多数出演。 2014年、千葉県立中央博物館で行われた企画展の図録として、『図鑑大好き!』(彩流社)を出版。『講談社の動く図鑑 MOVE 植物』(講談社)の監修も担当している。 写真:小松貴史 千葉県立中央博物館 分館海の博物館 http://www2.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/

1962年、神奈川県生まれ。「千葉県立中央博物館 分館海の博物館」分館長。所有する図鑑は1800冊以上。 TBS系テレビ番組『マツコの知らない世界』では、“図鑑の世界”の案内人を務めるなど、メディアにも多数出演。 2014年、千葉県立中央博物館で行われた企画展の図録として、『図鑑大好き!』(彩流社)を出版。『講談社の動く図鑑 MOVE 植物』(講談社)の監修も担当している。 写真:小松貴史 千葉県立中央博物館 分館海の博物館 http://www2.chiba-muse.or.jp/UMIHAKU/