【１分で読める】アイヌ語をのこすことに命をかけた少女・知里幸恵

26万部を超えるロングベストセラーを全面改訂した最新の伝記『決定版　心をそだてる　はじめての伝記１０１人［改訂版］』（講談社）から、知里幸恵を紹介します。文字をもたないアイヌ語をローマ字で表記し、日本語の訳をつけて後世にのこした少女です。

「先生がいっていたのは、こういう意味なんだよ。わかった？」

1913年、大正２年、北海道の旭川でのこと。小学４年生の知里幸恵は、下級生に勉強をおしえていました。勉強以外に、先生が教室ではなす日本語の意味をおしえることもありました。

幸恵たちはアイヌ民族の子で、ふだんはアイヌ語をはなしています。しかし、明治時代には、政府がくらしや文化を和風に変えるようつよくもとめ、学校でも日本語しかつかわなかったので、授業がわからなくなる子がたくさんいました。それで、国語と作文のせいせきがばつぐんだった幸恵は、近所の子どもたちから、とてもたよりにされたのです。

そんななか、幸恵が大すきだったのが、おばあちゃんがアイヌ語で語る、アイヌ民族の叙事詩「ユカラ 」でした。「ユカラ 」の伝承者だったおばあちゃんの話は、おもしろさにくわえて、語りがうたうようにうつくしいのです。

幸恵が15さいになったある日のこと。そんなおばあちゃんを、アイヌ語を研究する言語学者、金田一京助がたずねてきました。

アイヌ語に文字はありません。生活や文化についてのことがらは、すべて口づたえです。金田一は何度もかよって、おばあちゃんの話を書きとめました。が、幸恵がおばさんのマツから、ローマ字でアイヌ語を書き表すことをまなんでいたことを知りました。しかも幸恵はおばあちゃんの「ユカラ 」をおぼえているうえ、日本語も古典の教養もゆたかです。

「幸恵さん。おばあちゃんの『ユカラ 』を、アイヌ語の語りはローマ字で記し、内容を日本語に翻訳してもらえませんか。」

幸恵はとびあがりました。

（先祖がつかってきたうつくしいことばを、後世のアイヌ民族につなぐことができる！）

やがてそれは『アイヌ神謠集』という歴史的な書物として世に出ました。が、心臓病で19さいでなくなった幸恵には、それを目にすることはできませんでした。

文：石崎洋司　

（この記事は『決定版　心をそだてる　はじめての伝記１０１人』をもとに構成しました。本では、すべての漢字にふりがながついています）

子どもが夢中になる人物のお話がいっぱい！

20年もの間売れ続けている伝記アンソロジーのロングセラーを全面改訂。子どもたちに、いま出会ってほしい、１０１人の物語を収録しました。

【知識と心を豊かにする５大特色】

●「子どもが共感できる」人物・エピソードを厳選。

●いっしょに読むとさらに楽しい！「親子」のエピソードも多数収録。

●一流の作家・画家による質の高い文章と絵で小さい子どもにも読みやすく、心にのこる物語に仕立てています。

●業績をコンパクトにまとめたコラムつき。写真資料もあり、子どもの質問におうちの方が答えることができます。

●すべての漢字にふりがなつき。興味をもったら何度も自分で読み返すことができます。


【主な収録人物】収録順　☆＝改訂版で新たに加わった人

＜愛と平和のためにつくした人＞
☆杉原千畝／マザー・テレサ／☆中村 哲／ナイチンゲール／シュバイツァー

＜おどろくべき発明で人々の生活をかえた人＞
☆スティーブ・ジョブズ／エジソン／フォード／ライト兄弟／豊田佐吉／☆糸川英夫

＜すごい発見・研究をした人＞
マリー・キュリー／☆ダーウィン／アインシュタイン／ノーベル／ニュートン／ガリレオ・ガリレイ／☆北里柴三郎

＜くるしくてもきぼうをすてなかった人＞
ヘレン・ケラー／野口英世／ベートーベン／アンネ・フランク／☆ルイ・ブライユ

＜みんなのリーダーになった人＞
坂本竜馬／リンカーン／☆渋沢栄一／ガンジー／徳川家康／☆ハリエット・タブマン／豊臣秀吉

＜ひとつのことをやりとげた人＞
植村直己／ファーブル／津田梅子／福沢諭吉／☆牧野富太郎／本田宗一郎／☆田部井淳子／☆金栗四三

＜芸術・文化をうみだした人＞
レオナルド・ダヴィンチ／☆アンナ・パブロワ／サン・テグジュペリ／滝　廉太郎／☆知里幸恵／手塚治虫

＜もっと知りたい＞
紫式部／☆岡本太郎／☆柳　宗悦／葛飾北斎／☆古関裕而／☆アメリア・イアハートほか


＊カバー絵　佐竹美保
＊文　石崎洋司／立原えりか／間所ひさこ／岡田好惠
＊さし絵　伊野孝行／永田 萠／平澤朋子／牧野鈴子／沢田としき／紙谷俊平／大島妙子／ささ やすゆき／青山邦彦／瀧原愛治／牛窪良太／狩野富貴子／サクマユウコ／樋上公実子／東 逸子／谷 小夏／佐竹美保／丹地陽子／野村たかあき／笹尾俊一／吉田友和／田中六大／二俣英五郎／銀杏早苗／坂口友佳子／篠崎三朗／角しんさく　

北海道登別にある知里幸恵の記念館。一般の人の寄付で2010年に完成し、知里幸恵の業績、アイヌの文化を伝えている。