子どもの「空間認知力・造形力」を「◯△□で作る紙工作」が高める理由 造形の専門家が解説【紙工作プロセス付き】

紙造形作家・秋山美歩先生に聞く、「○△□で作る紙工作」 #1 ~○△□が表現力を高める理由と2つの紙工作プロセス編~

紙造形作家:秋山 美歩

〇△□を組み合わせると、身のまわりのさまざまなものが作れます。

「工作があまり得意ではないというお子さんには、『○△□』が“何に見えるか”と考えることからスタートさせると、楽しく工作ができるきっかけになると思います」とは紙造形作家の秋山美歩先生。

複雑な形も○△□に落とし込むことで、ものの形を大まかにとらえる力(空間認知能力)がトレーニングできると、秋山先生はいいます。そこで○△□を使った紙工作を秋山先生に教えてもらいました。

1回目は○△□を使うことのメリットや楽しさについてと、幼児から作れる紙工作2点をご紹介します。

(全3回の1回目)

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秋山美歩(あきやま・みほ)
紙造形作家。1982年山梨県生まれ。大阪教育大学大学院芸術文化専攻修了。大学在学中より、紙の動物たちの作品を制作。美術館での個展・ブランドとのコラボレーション・ディスプレイへの作品提供・ワークショップなど多方面で活躍中。

○△□で空間認知能力がトレーニングできる

――『○△□で作る紙工作』の作品が生まれたきっかけを教えてください。

秋山美歩先生(以下、秋山先生):『○△□で作る紙工作』は、私がもともと、いちばんやりたかったことを書籍としてまとめました。

というのも、私は大学を卒業してから、自分の創作活動をしつつ、高校で美術を教えたり、兵庫県が運営するシニアカレッジで芸術の指導をしたり、幼稚園の課外造形教室を担当したりしていました。

たくさんの方との出会いを通じて感じたのは、立体で何かを作ったり、紙を組み合わせて何か作るということに関しての経験値が少ない方が意外に多いということ。

例えば、折り紙の「鶴」を例に取ると、折り紙を渡されて「これで鶴を作る」と言っても、頭の中に思い描いた鶴をリアルに紙で作るのは、美大の学生さんでもすぐにはなかなかうまくできないもの。

皆さんが知っている「折り紙の鶴」は、尖った長い棒状の部分を「首」に、三角の平らな部分を「羽」に見立てて、「鶴」を「鶴に見える形」に落とし込んでシンプルに表現しているものです。

△だけでも作品が作れます。△を重ねて合わせると……。
△がちょうちょになりました!

秋山先生:身近なものの形を、◯△□というシンプルな図形に落とし込むこと(見立て遊び)。逆に、◯△□の組み合わせの図形の中に、知っている物の形を見出すという遊びを繰り返す中で、私は造形力や空間認知能力は育まれるものだと強く思っています。この思いから、「◯△□で作る紙工作」を提案することにしました。

また折り紙を使用した理由は、身近な素材で、色もカラフルだということ。造形活動にも入りやすく、色の表現力も高めることができます。

工作が不得意でも○△□がきっかけになる!

──子どものころから○△□を使って工作をすることは、どのようなメリットがあると秋山先生は考えていますか?

秋山先生:私の子どももそうでしたが、「遠足の絵を描きましょう」と言われて、描きたいものが頭に浮かんでいても、スムーズにはいかない子どももたくさんいると思います。

そういうときに、○△□という基本的な形を画用紙に並べておき、「この○△□は、遠足のときの何かに見える?」と聞くと、急に子どものペンが動き出す、ということがあります。

お絵描きや、工作が得意ではないという子どもにとっては、○△□という見慣れた形が何に“見えるか”と考えることをスタートにすれば、楽しいきっかけになると思います。

さまざまな大きさの□を重ねていくと……。
ビルになりました!

秋山先生:また、〇△□という形があることで、「ものを描かなければならない」というプレッシャーが減るようにも思います。絵や造形に苦手意識があると、自分が描いたものに不安を感じるお子さんも多いのですが、〇△□という、もともとある形を使うことで、不安が軽減され、その子らしい表現に繋がっているとワークショップなどから感じることがあります。

お絵描きが好きな子は、自分の好きなイラストや絵本にたくさん触れて、真似をしてたくさん描くことで「こう描けば、この動物に見えるんだ」などと学んでいきますが、苦手意識がある子は、真似描きの経験も少なくなり、「自分には難しい」と思い込んでしまう。

しかし、〇△□を使うことで、描き始めのハードルをぐっと下げ、チャレンジしやすくなります。それに〇△□しか使えないので、子どもの感じる「うまい」「へた」のばらつきも少なくなる。

創作が、周りとの競争ではなくなるので、「どんどん作ってみよう」という気持ちが自然と生まれるのかなと思っています。

○と□を切って貼って作った「うし」。次回2回目で作り方を紹介しています。

発言せず大人は見守ること

──○△□を親子で楽しむ際に、親として気を付けたいポイントはありますか?

秋山先生:見ている大人のちょっとした発言が、子どもの「絵が得意」「絵は苦手」という気持ちに影響を与えるということは少なくありません。

私は子どものとき、自分が自転車に乗っている絵を描いたのですが、自分としては横顔を描いたつもりだったのに、絵の先生から「顔が正面を向いているなら、目がひとつ足りないよ」と描き足されたされたのが、とてもショックでした。

その子が、「何を描こうとしているか」がいちばん大切で、それがほかの人からどう見えるかは重要ではありません。「これはなあに?」と問いかけもよいのですが、子どもから求められない限り、描くものの内容に関して大人は余計なアドバイスをしないこと。

「環境を整えて、後は見守るだけ」という姿勢が大事なのだと、私自身も子育て・造形指導を通じて学びました。

「◯△□を使う」というルールに沿って作ってみて、そこからはみ出てくるものがあるなら、それはそのお子さんのとっても素敵な個性です。

本に載っていないものや見たこともないものを作り出したら、「何を作るのかな?」と、楽しく見守ってあげてください。

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