コロナ禍・子どもの体力低下&肥満が深刻レベルで注目の遊び「JUMP‐JAM」とは?

「JUMP‐JAM」監修者 千葉工業大学創造工学部・引原有輝教授 #1~スポーツにはない「遊び」の価値~

千葉工業大学創造工学部教授:引原 有輝

スマホやゲームなどを一因とした子どもの体力低下が、今、問題になっている。 写真:アフロ

新型コロナウィルスの感染拡大が始まって3年目。コロナ禍以降、外出自粛、運動会の中止などが相次ぎ、友達と外で遊ぶ機会が減ってしまった子どもも多いのではないでしょうか。

実際、子どもの体力や運動能力は、コロナの影響を色濃く受けており、体を動かす機会を作るために運動系の習い事を検討するパパママも増えていると言います。

そんな状況下で注目を集めているのが、都内の児童館で実施されている「JUMP‐JAM(ジャンジャン)」です。

「JUMP‐JAM」は、日本の子どもたちの運動状況を考慮して独自に開発された、スポーツと自由な遊びが合体した新しい運動遊びプログラム。

千葉工業大学創造工学部体育教室の引原有輝教授監修のもと、一般財団法人児童健全育成推進財団とナイキにより開発されました。

監修者である引原教授に、現代の子どもたちが抱える体力低下の問題と、パパママが知っておきたい「遊び」の価値について伺いました。

※全3回の1回目

引原有輝(ひきはら・ゆうき)PROFILE
千葉工業大学創造工学部教育センター/創造工学研究科デザイン科学専攻教授。博士(体育科学)。東京都教育庁主導の統一体力テスト分析委員会委員。LEGO®SERIOUS PLAYトレーニング修了認定ファシリテータ。

発育発達学、健康体力学、行動科学を専門とする引原有輝教授。2009年から2021年まで東京都教育庁が主導する統一体力テスト分析委員会委員を務めた。

子どもの体力が低下&肥満率は過去最大に

今、子どもが体を動かす機会が減っています。コロナの影響もあり、子どもがテレビやタブレット、ゲームにばかり夢中になっている……と悩むパパママも多いのではないでしょうか。

「実は、コロナ禍以前から、子どもの体力・運動能力の低下は問題視されていましたが、学校現場での取り組みもあり、ここ10年ほどは全体的に上向き傾向でした。

ところがコロナ禍が始まって1~2年で、またガクンと下がってしまったんですね」(引原有輝教授)

スポーツ庁が小5・中2男女を対象に毎年行っている「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(※1)によると、2021年度の「体力合計点」は、男女ともに2019年度を下回っています(2020年度は調査中止)。
※1=令和3年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果(概要)について

体力合計点とは50m走や握力など8種目を点数化した合計点のこと。令和3年度に大きく下がっていることが分かる。  出典:令和3年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査の結果(概要)について/スポーツ庁

50m走や握力など実技8種目それぞれの点数は、長座体前屈以外すべて低下。

その背景には、学校の活動が制限され体育の授業以外での体力向上の取り組みが減少したこと、またスマホ視聴やゲームをする時間が増えた分、外で体を動かす時間が減少したことなどが指摘されています。

体を動かす機会が減ることは、運動が好きな子とそうでない子の差が広がっていくことも意味します。小学生男女と中学生男子の肥満率が、平成20年(2008年)以降で最大となっているのも気になるところです。

「今、体を動かすことが好きではない・運動が嫌いという非アクティブ層の子がとても増えてきています。

人が健康的に生きていくには身体活動が欠かせませんが、大人になってからいきなり運動を始めてもなかなか長続きしないんですね。

生涯にわたりアクティブライフを獲得するためにも、子どものころから体を動かす習慣をつけていくことが重要です」(引原教授)

そこで、非アクティブ層の子どもにも体を動かすことを好きになってもらうために、引原教授が着目したのが「遊び」です。

「例えば、サッカーや野球のクラブに入ると、そのスポーツに要求される動きやスキルにフォーカスして鍛錬していきますよね。

ある特定のスポーツ種目をみんなで実践しようとすると、求められるスキルがあることですべての子どもが楽しみながら体を動かすことができません。

一方遊びは、何をするかによって動きが変わるので、動きの洗練さや道具の扱い方によるスキルの優劣はさほど関係ありません。

また、運動やスポーツと違い、子ども目線で遊び方を工夫したり、ルールを自由に決めたりできることで、【上手・下手】が表面化しにくいため、純粋に楽しむことができる。遊びをきっかけに、体を動かす楽しさを知ることもできるでしょう」(引原教授)

足が遅い=運動が苦手とは限らない

飛んだり跳ねたり走り回ったり……幼少期には体を動かすことが好きな子どもも多いなか、そもそもなぜ運動が好きな子と嫌いな子に分かれていくのでしょうか。

それは、発育の速度や生まれ月の違う子どもたちが一律に評価されることに一因があると引原教授は続けます。

「同じ学年でも4月生まれと3月生まれの子の身長は、平均で、小1で5cmほど、小6では6cmほどの差があります。

身長が低いということは、筋力も小さいということです。さらに、早熟なのか晩熟なのか、成長のスピードやピークの訪れも子どもそれぞれ。

そういった状況下で、運動やスポーツで順位にこだわったり、上手・下手のみで評価することはやめたほうがいいと私は考えています。

とくに足の速さって、小学校では〝運動ができる〟バロメーターの一つになるでしょう。露骨に順位や記録が出れば、子どもたちにとっては、自分は運動ができる・できないの指標になってしまう。

晩熟型の子は後から伸びていくのに、そのときの記録や順位で自分の向き不向きを決めてしまい、運動を嫌いになっていくケースも多いんです。これは、とてももったいない」(引原教授)

運動は体の成長に大きく影響されるにもかかわらず、学校やスポーツクラブなどの現場ではこうした背景が十分に考慮されていないことも多いと引原教授は指摘します。

成長期が遅い子どもをもつパパママは、「うちの子って運動ダメなのかな」と心配することもあるかもしれませんが、将来逆転する可能性がいくらでもあるということを知っておけば、見守り方や運動との関わり方も違ってくるかもしれませんね。

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