ショートアニメ化決定の大人気シリーズ「はりねずみのルーチカ」 作家と画家が二人三脚で紡いだ「癒やし」の物語

シリーズ11年目を迎えて 作家・かんのゆうこ×画家・北見葉胡のスペシャル対談

ライター:山口 真央

作家のかんのゆうこさん。画家の北見葉胡さんとともに、お花屋さんが併設されたカフェでお話を伺いました。

「はりねずみのルーチカ」シリーズは、森のかわいい生き物たちが冒険しながら、大切なものを見つけていく物語です。作家のかんのゆうこさんの温かい文章に、画家の北見葉胡さんが色彩豊かなイラストを描きます。

1冊目の『はりねずみのルーチカ』が刊行されてから11年目。関連本も合わせて、おふたりで15冊の本を刊行されてきました。3月には、初めての低学年版『はりねずみのルーチカ たまごのあかちゃんだーれだ?』を出版。さらに4月には、ショートアニメ化されることが決まっています。

「はりねずみのルーチカ」シリーズを描く前から、お互いを知っていた、かんのさんと北見さん。おふたりはどんな経緯で物語を紡いできたのでしょうか。「はりねずみのルーチカ」シリーズの創作秘話を深掘りします。

かんの ゆうこ
東京都生まれ。東京女学館短期大学文科卒業。児童書に「はりねずみのルーチカ」シリーズ(絵・北見葉胡)、「ソラタとヒナタ」シリーズ(絵・くまあやこ)、『白うさぎと天の音 雅楽のおはなし』(絵・東儀秀樹)(以上、講談社)、『とびらの向こうに』(絵・みやこしあきこ/岩崎書店)など。絵本に、『はるねこ』(絵・松成真理子)、『はこちゃん』(絵・江頭路子)、プラネタリウム番組にもなった「星うさぎと月のふね」(絵・田中鮎子)(以上、講談社)などがある。令和6年度、小学校教科書『ひろがることば小学国語二上』(教育出版)に、絵本『はるねこ』(絵・松成真理子/講談社)が掲載される。

北見 葉胡
神奈川県生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。児童書に、「はりねずみのルーチカ」シリーズ、「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズ(ともに作・かんのゆうこ/講談社)、絵本に『マーシカちゃん』(アリス館)、『マッチ箱のカーニャ』(白泉社)、『小学生になる日』(新日本出版社)など。書籍挿画に「安房直子コレクション」(全7巻/偕成社)などがある。2005年、2015年に、ボローニャ国際絵本原画展入選、2009年『ルウとリンデン旅とおるすばん』(作・小手鞠るい/講談社)が、ボローニャ国際児童図書賞受賞。

『低学年版 はりねずみのルーチカ たまごのあかちゃん だーれだ?』
2013年に刊行された『はりねずみのルーチカ』と、北見さんが描いた表紙のラフ。物語はここからはじまりました。

震災の傷を癒やすため「あたたかな物語」を描きたいと思った

──「はりねずみのルーチカ」11年目突入、おめでとうございます! かんのさんと北見さんは「はりねずみのルーチカ」を描く前から、知り合いだったと聞きました。おふたりが初めて会ったときのことを教えてください。

かんの:葉胡さんの絵に初めて出会ったのは、あるレストランに飾られてあった絵本『さぼてん』を読んだときです。葉胡さんの絵も文章も、とても私の好きな世界だったんです。その絵本の出版社が講談社だったので、私の担当編集者さんに連絡してみると、なんとその方が葉胡さんの担当でもいらして、「よかったら今度ご紹介しますよ」と言ってくださいました。

北見:その編集者さんと一緒に、ゆうこさんが私の個展に遊びにきてくれたんですよね。こんなに可愛らしい方が『さぼてん』を、なぜ気に入ってくださったの?と思いましたが、話してみると、初めて会ったとは思えないくらい、会話が盛り上がりました。

かんの:初めて葉胡さんと会ったときの印象は、「童話から抜け出してきたような、少女のようにかわいらしい人」でした。初対面なのに、初めて会ったとは思えないくらい親近感を感じたんです。実際に話してみると、やさしくて、おもしろくて、好きなものや大事にしていることがいろいろと似ていたりして、すっかり意気投合したのを覚えています。

お話をするかんのさん(右)と北見さん(左)。ふたりの間に流れる空気感は、仕事仲間というよりは、親密な友達のよう。

──大変気が合ったのですね。それからかんのさんが「はりねずみのルーチカ」の絵を、北見さんにお願いするまでに、どんな経緯があったのでしょうか。

かんの:葉胡さんを引き合わせてくれた編集者さんと一緒に、ふたりで『カノン』という絵本をつくりました。絵本づくりを通してお互いの価値観や、好きな世界観が似ていると改めて感じ、葉胡さんともっと一緒に仕事したいと思っていたんです。

それからずいぶん経った後、2011年の東日本大震災が起きて、夫が仙台出身だったため親戚が被災したり、また原発事故の不安もあって、すっかり気分が落ち込んでしまった時期がありました。このままでは心が病気になってしまう。元気を取り戻すための物語をつくろうと書き始めたのが『はりねずみのルーチカ』です。

自分と同じように震災で不安になっている人や、悲しみの中にいる人の心に、小さな灯りがともるような物語を書きたいと思いました。 そんなときに思い出したのが、以前に『とびらの向こうに』(岩崎書店刊)という小学校高学年向けの短編連作集に書いた、愛らしいはりねずみが主人公の『ルーチカ』というお話です。

ルーチカは、人と話すことができる、ピュアな心を持ったはりねずみの男の子だったので、私が書きたいと思っていた、読むだけでほっと安心できるような物語の主人公にぴったりだと思い、書きはじめました。物語のプロットができた段階で、葉胡さんにご連絡をしました。ルーチカの本をつくるなら、ぜひ葉胡さんに絵を描いていただきたいという思いがあったのです。

北見さんが描いたルーチカのイラスト。

北見:ゆうこさんから連絡があって、長編の物語を初めて描いていること、そしてその物語の絵を描いてほしいことを告げられました。しかも、その物語は1冊で終わるお話ではなく、ライフワークとして長く続けられる童話シリーズにしたいという想いも聞かせてもらいました。

さっそく、書き出しの部分を読ませてもらって、とても感動したんです。胸が高鳴って、早く先が読みたいと思いました。すぐに私の描きたい世界にあふれているこの物語に、ぜひ絵を描かせてほしいと、ゆうこさんにお返事をしました。

かんの:葉胡さんから絵を描きたいと言ってもらえて、一人ぼっちだった世界に、心強い仲間ができたと思いました。それから少しずつ物語を書いては、葉胡さんにメールで原稿を送りました。葉胡さんは読んだあと、必ず温かい感想を返してくださって、それが執筆の励みになりました。

私がお話を書き上げるまで、2011年の秋から2012年の秋まで、約1年ほどかかりました。この時期の葉胡さんとのやりとりを思い出すと、胸の奥にあたたかいオレンジ色の灯りがともるような、幸せな気持ちになります。

北見さんとのやりとりを「仲良しのおともだちと二人だけの秘密の場所で遊んでいるような気持ちだった」と、話すかんのさん。
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