当事者が語る「きょうだい児」が抱える〈生きづらさの正体〉とは?

重度知的障害・自閉症・強度行動障害の弟をケアし続けた当事者が語る「きょうだい児の現実」(1)

平岡 葵

小学校は不登校の状態が続きましたが、中には家まで来てくれる先生や、「あなたみたいに優しい子はいない」と言ってくれる先生もいて、救われました。

成長するにつれて友人が増え、自分の世界が広がったことも大きいかもしれません。高校卒業後には実家からの脱出を果たし、慶應義塾大学に合格しました。

就職後に帰省したときには、弟に「久しぶり」と言っても、私などいないかのようにスルー。自閉症の特性だということは分かっていても、「あんなに面倒を見たのに」とショックで泣きましたね。でもそれが、「弟の世話は、私じゃなくても大丈夫なんだ」と気づくきっかけにもなりました。

過酷な家庭環境でも、平岡さんが犯罪に走らなかった理由

──聞けば聞くほど過酷な環境です。そんな中、平岡さんを支えたものはなんだったのでしょうか。

平岡さん
5歳までの日々が、私を支えてくれたと思っています。

両親がカルト宗教に入信する前は、寿司屋を営み、社会と健全なかたちでつながっていました。私も両親の仕事を手伝って、お客さんにほめてもらったことを覚えています。「忙しいけど最高!」という雰囲気がとても好きでした。

5歳までの幸福な記憶がかろうじて著者を支えていた(『きょうだい児 ドタバタ サバイバル戦記』より)

そのころの我が家は、どこにでもある普通の家庭。両親はたくさん遊んでくれたり、絵本を読み聞かせてくれたりしました。

私はずっと、あのころの両親に戻ってほしくて、精一杯がんばっていたのかもしれません。

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