【下痢・嘔吐・発熱】子どもに「ウイルス感染」「胃腸炎」の可能性  受診の目安・治療法・家庭内感染を防ぐ方法 

消化器病、消化器内視鏡専門医・髙橋裕太先生に聞く「ウイルス性胃腸炎」 #1 ~基礎知識編~

消化器病専門医、消化器内視鏡専門医:髙橋 裕太

──ウイルス性胃腸炎にはどんな種類がありますか?

髙橋裕太先生(以下、髙橋先生):いくつかありますが、ノロウイルスとロタウイルスが多いですね。特にロタウイルスは感染力が非常に強く、保育園や幼稚園などの集団生活で5歳までにほとんどの子どもが感染すると言われています。

ノロウイルスは、主に汚染されたカキなどの二枚貝を生で食べたときに感染します。

いずれの場合も、感染者の嘔吐物や便には、大量のウイルスが含まれています。それらに直接触れたり、周辺に漂っているウイルスを吸い込むことで感染します。感染すると、24~48時間で下痢や嘔吐、発熱や腹痛などの症状が現れます。

治療法は基本的に同じ

──ウイルスによって治療法は違うのですか?

髙橋先生:基本的には変わりません。ウイルスが身体から排出されるのを待つしかないので、吐き気を抑えるなどの対症療法になります。そのため、軽度の場合はウイルス検査をしないことも多いですね。

胃腸炎にかかったときに一番気を付けなければならないのが、下痢や嘔吐による脱水です。喉が渇いていなくても、こまめに水分をとるようにしましょう。

冷たすぎたり、一度にたくさん飲んだりすると、胃腸に刺激を与え、さらなる吐き気や下痢を引き起こす恐れがあります。常温に近い温度で少しずつ飲むことが大切です。

水分と一緒に塩分も失われるため、経口補水液やスポーツドリンクをおすすめします。なければ水やお茶でもかまいませんが、少ししょっぱいかなと感じる程度の塩を入れると塩分も一緒に補給できます。ちなみに点滴にも使われる生理食塩水は、0.9%の食塩水です。

脱水が疑われるときはすぐに受診を

──症状はどのくらい続きますか?

髙橋先生:個人差が大きいですが、数日から一週間でおさまります。吐き気が先に落ち着いて、下痢だけ続くこともありますね。きちんと水分がとれて元気があれば自宅で様子を見ていて構いませんが、嘔吐が続く場合や、血便が出たり、頭痛や発熱を伴う場合は、かかりつけの小児科を受診してください。

病院では吐き気止めの処方や、容体によっては点滴を行います。脱水症状が進んでいる、あるいは家庭内感染が広がって家族が看病できない場合などは、入院の指示が出ることもあります。

直接触れないようにビニール手袋やマスクを

──家庭内感染を防ぐために大切なことは何ですか?

髙橋先生:まずは手洗いですね。石鹼と水で物理的に洗い流すのがもっとも効果的です。感染者本人はもちろん、家族もこまめに手洗いをするようにしましょう。

──子どもの嘔吐物や便を処理するうえで気を付けることはありますか?

髙橋先生:直接触れたり、ウイルスを吸い込むことがないよう、使い捨てのビニール手袋やマスクなどをするといいですね。

衣類などについてしまった場合は、汚れを洗い流してから、他の衣類と分けて洗濯をします。それだけでもウイルス量を減らすことはできますが、乾燥機にかけたり煮沸するなどをして、85℃以上で90秒以上加熱するとさらに効果的です。

布団やカーペットなど洗濯機で洗えないものは、汚れを落とした後にスチームアイロンを当てるのもおすすめです。

床や壁には次亜塩素酸ナトリウム液が効果的

──便や嘔吐物がついてしまった床や壁などは、アルコール消毒をすればいいですか?

高橋先生:アルコールは、コロナウイルスやインフルエンザウイルスには有効ですが、ノロウイルスやロタウイルスには効きにくいとされています。効果が認められているのは、次亜塩素酸ナトリウム液です。

次亜塩素酸ナトリウム液は、ドラッグストアなどで購入できますが、塩素系漂白剤を希釈して手作りすることもできます。
一般的な5~6%濃度の塩素系漂白剤の場合、500~600mlの水に10mlの原液を混ぜ合わせると、ちょうどよい濃度(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウム液になります(※商品によって濃度が異なるため、表示を確認してください)。
それを雑巾などにしみ込ませて、汚れた箇所をふきましょう。思った以上に飛沫が飛んでいるので、周辺も広めに消毒するようにしてください。

トイレの蓋やドアノブ、トイレットペーパーホルダーなど、感染者が触れた部分は、それを5倍に薄めた0.02%の消毒液でふくといいと思います。

──手洗いや消毒以外に何かできることはありますか?

高橋先生:便や嘔吐物は液状で飛び散りやすいので、トイレの蓋は閉めて流すようにしましょう。また、手洗い後のタオルも感染者と使い分けたほうがいいですね。ウイルスが部屋の中に停滞しないよう、こまめに換気するのもおすすめです。

───◆─────◆───

今回は、ウイルス性胃腸炎の基礎知識について教えていただきました。手洗いや消毒を徹底して、家庭内感染を広めないようにしたいですね。

次回は、胃腸炎にまつわるさまざまな疑問編。引き続き、髙橋先生に教えていただきます。

取材・文/北 京子

ウイルス性胃腸炎に関する記事は全2回。
2回目を読む。
(※2回目は2024年9月19日公開。公開日までリンク無効)

この記事の画像をもっと見る(全2枚)
20 件
たかはし ゆうた

髙橋 裕太

Yuta Takahashi
消化器病専門医、消化器内視鏡専門医

消化器病専門医、消化器内視鏡専門医。仙台消化器・内視鏡内科クリニック・長町院 院長。 1999年福島県立医科大学附属病院第2内科(現・消化器内科)、2007年公立相馬総合病院消化器科を経て、2021年9月より現職。 仙台消化器・内視鏡内科クリニック 長町院

消化器病専門医、消化器内視鏡専門医。仙台消化器・内視鏡内科クリニック・長町院 院長。 1999年福島県立医科大学附属病院第2内科(現・消化器内科)、2007年公立相馬総合病院消化器科を経て、2021年9月より現職。 仙台消化器・内視鏡内科クリニック 長町院

きた きょうこ

北 京子

Kyouko Kita
フリーライター

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。

フリーライター。 藤沢市在住。食の月刊誌の編集者を経て独立。食を中心に、SDGs、防災、農業などに関する取材・執筆を行う。 3児の母。自然の中で遊ぶこと、体を動かすこと、愛犬とたわむれることが好き。