「子どもの近視」が増加中 近視予防の「ルール」&近視の進行を防ぐ「生活習慣」を専門医が解説
眼科医・五十嵐多恵先生に聞く「子どもの近視」#2 ~近視を予防する生活習慣~
2024.05.09
眼科医:五十嵐 多恵
近年増え続ける子どもの近視。進行してしまった近視は、基本的に元に戻すことはできません。しかし、近視の進行を予防するのに効果的な生活習慣は明らかになっています。
屋外活動や近業の予防など、近視の進行を防ぐための生活習慣について、東京都立広尾病院眼科医長の五十嵐多恵先生に教えていただきました。
(全3回の2回目。1回目を読む)
眼から30cm以内でものを見る時間を減らそう!
――今回は、子どもの近視の予防法について教えてください。
五十嵐多恵先生(以下、五十嵐先生):そもそも人の眼は、生まれたばかりのときは小さく、体が成長するとともに眼も大きくなっていきます。前回でも説明しましたが、このとき「眼軸」と呼ばれる、いわば眼の長さが年齢に比べて長くなってしまうのが近視の状態です。
では、どうして眼軸が長くなってしまうかというと、いくつかの原因がありますが、ひとつには「近業」と呼ばれる“眼から30cm以内でものを見る作業”の増加が挙げられます。この「近業」の時間が長いほど、眼軸が伸びて近視になりやすいといわれています。
ですから、近視を防ぐにはまずこの「近業」をできるだけ少なくすることが効果的です。スマホやタブレットなどのデジタルデバイスを長時間使わせることは避けたいですね。家庭での使用時間は1時間以内に留めたり、動画はテレビを利用して画面から離れてみたりなど、工夫して眼に良い環境作りを心がけてください。
また、近視予防に「20-20-20(トゥエンティ・トゥエンティ・トゥエンティ)」というルールがあります。これは「手元の作業を20分行ったら、20秒くらい、20フィート先を見よう」というものです。アメリカで生まれたキャッチフレーズなのでフィートになっていますが、メートルに直せば約6m。少し遠くを見るイメージです。
特に眼に悪いのが、20cm以内の近業といわれています。近業をするときは眼を30cm以上離して、20~30分に1回は遠くを見る習慣をつけるといいですね。
屋外で過ごす時間を作ると近視予防効果が!
──ほかにも気をつけることはありますか?
五十嵐先生:できるだけ屋外で過ごす時間を作ることも大切です。屋外で過ごして、一定量以上の光が眼に入ると、網膜からドーパミンが出ます。そのドーパミンに、眼軸の伸びを抑制する作用があるとわかっているからです。
実は、いち早く近視に関する研究が進んでいる海外では、子どもの保育環境に屋外活動を多く取り入れて、近視予防に効果を挙げています。
例えば台湾は、2010年ごろから学校教育の場で1日約2時間、屋外活動の時間を取り入れました。これによって児童の近視の発症を減らすことに成功しています。実際に、多くの人が自粛生活をしたコロナ禍で近視が増えたとされていますが、それまで屋外活動を取り入れてきた台湾ではそれほど近視が増えなかったのです。
また、シンガポールで行われた研究では、黒いサングラスをかけた状態や、つばのついた帽子をかぶった状態で
屋外に出ても、近視の発症予防に十分な屋外光を取り入れることが可能であることがわかりました。つまり、UVカットなどで紫外線を防ぎつつ屋外で活動しても、十分効果があるとわかったのです。
さらにさまざまな研究から、就学前の時期に屋外活動を取り入れたほうが、より効果が高いこともわかってきています。ですから、今は海外では、できるだけ早い段階から屋外活動を積極的に取り入れている国も出始めています。学校教育についても、教室で行う勉強だけではなく、理科や社会などは屋外でアクティブラーニングを推進している国も多くなっているのです。
1日2時間を目標に外で活動しよう
五十嵐先生:なお、明るい場所がいいならば、屋内でもいいのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、近視予防効果があるとされている光量は1000ルクス以上です。
屋外ならば曇りの日の日陰でも、1000ルクス以上の光量がありますが、屋内ではまったく足りません。人間の眼には明るく見えても、実は屋内の光というのは屋外に比べれば圧倒的に少ないからです。
紫外線対策をした上で、屋外に出る時間をできれば1日2時間程度作ることが、近視の発症を減らすことに重要なのです。
──屋外で過ごす時間を作って、20~30分に1回は遠くを見る習慣をつける。これなら日常生活に取り入れることができそうです。
五十嵐先生:遺伝的な要因は変えることができませんが、環境要因は保護者が気をつけてあげるだけで変えることができます。屋外で過ごすことなどは、近視予防だけではなく子どもの発達の面からも良いことですから、ぜひ取り入れてほしいと思います。
また、日本眼科学会が作成した近視予防の啓発動画「進む近視をなんとかしよう! イヌ、屋外活動をおすすめするの巻」もとてもお勧めです。ぜひ一度見てみてくださいね。
【すすむ近視をなんとかしよう!】(日本眼科医会)
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今回は、近視の進行を予防するための生活習慣について教えていただきました。屋外で過ごすことは子どもの発達にも良いことですが、近視予防効果があるというのには驚きました。次回3回目では、近視の進行を抑制するための最新治療について、引き続き五十嵐先生に教えていただきます。
取材・文/横井かずえ
子どもの近視は全3回。
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3回目を読む。
(3回目は2024年5月10日公開。公開日までリンク無効)
横井 かずえ
医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL: https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2
医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL: https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2
五十嵐 多恵
眼科医。2004年金沢大学医学部卒業。2009年に東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科フェロー、東京医科歯科大学眼科講師(キャリアアップ)を経て、2024年4月から、東京都立広尾病院眼科医長・東京医科歯科大学眼科非常勤講師。
眼科医。2004年金沢大学医学部卒業。2009年に東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科フェロー、東京医科歯科大学眼科講師(キャリアアップ)を経て、2024年4月から、東京都立広尾病院眼科医長・東京医科歯科大学眼科非常勤講師。