2024年2月、福岡県みやま市で小学校1年生の男子児童が味噌おでんに入っていたうずらの卵を喉に詰まらせ、窒息死してしまうという事故が起きました。
この事故を受け、文部科学省は、学校給食における窒息事故の防止について都道府県教育委員会に注意喚起の通知を発出。全国の教育委員会では、給食でうずらの卵の使用を当面禁止する方針をまとめたところもありました。
「過去にもパンの早食いでの窒息や、白玉団子やプラムでも事故が起こりました。このような事故が起こるリスクは、どの食材にも考えられることなんです」と話すのは、都内の公立小学校で働く、管理栄養士の松丸奨先生。
痛ましい事故が起こらないために、給食の現場はどう対応していくべきなのか。松丸先生へ伺いました。
松丸奨(まつまる・すすむ)
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の公立小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。日本テレビ系「世界一受けたい授業」などメディア出演多数。
子どもにとって本当に危険な食材とは?
「給食で使っていい食材、禁止されている食材というのは、東京都だと区によって異なります。あまり知られていないことなのですが、自治体によってルールが全然違うんですよ」と話すのは、都内の公立小学校の管理栄養士・松丸奨先生。
うずらの卵が原因の窒息事故は、2015年にも起こっています。2024年の窒息事故を受け、給食でのうずらの卵は当面使用禁止にした自治体も少なくありません。
「事故が起こるリスクは、どの食材にもあることだと思っています。水分をあまり摂ってない状態で食べると喉に詰まりやすいなど、子どもたちの喫食の状況も関係します。
食材によっては、食べるときのサイズを小さくしたり、調理の工夫をしたりすることで事故を防ぐことはできます。だから事故が起こるたびに、その食材を禁止するという対応を続けていくことに疑問を感じています。
子どもたちの食べられる食材の幅がどんどん狭まってしまいますし、それは本当に子どもたちのためになることなのかな、と感じるんです」(松丸先生)
校長の「検食」で食の安全と味を確認
ちなみに、子どもたちに出される給食は、出来上がったら校長先生による“検食”があります。子どもたちに届ける30分前までに、必ずこの検食をしなければならないと「学校給食法」で決められているのです。
「校長先生には、味の感想はもちろん、香りや見た目、色彩、温度、1食分の量、異物混入などを確認してもらいます。そこで何か指摘がある場合は、急いで味を調整し直すこともあります」(松丸先生)
特に魚の日は、十分に確認していると松丸先生。
「ご家庭で骨を除いた魚や、骨なし魚を食べて育っている子が多いので、給食の魚の骨には十分に注意を払っています。秋に秋刀魚を出すと『骨だらけで嫌』『食べたら喉が痛くなった』という子もいますね。
最近では、校長先生が給食の時間に放送を入れることもあります。『今日の魚には骨があります。気を付けてよく嚙んで食べましょう』と。魚なんだから、骨があって当たり前のことなのですが、そこまでしないと何が起きるかわかりませんから」(松丸先生)
楽しい給食の時間に痛ましい事故が起こることのないよう、安全に食べられるような配慮を続けているのです。
子どもの好き嫌いを減らす「小さな励まし」
「今は、強制して食べさせる時代ではありません。好き・嫌い、食べる・食べないも本人の自由。子どもの主体性に任されているところが大きい。
ですが、給食は、1食で栄養価が整ったものを提供しています。子どもの健康と成長に必要な食事で、決して食べるのに無理な量は出していません。
保護者の方にお願いしたいのは、ご家庭で『給食は今の身体に必要なものばかりだから、頑張ってできるだけ食べようね』と、子どもたちの背中を押してあげてください。
もちろん、しっかり食べる子はそんな言葉は必要ありませんが、実は僕自身も、小学生のころは身体が弱くて、野菜も魚も大嫌い。給食が大の苦手でした。
でも、当時の管理栄養士の先生に『給食は松丸くんのためになるものしか入ってないから、頑張ってひと口食べてみて!』と励まされて、徐々に食べられるようになったんです」(松丸先生)
そんな小さな声掛けが、子どもたちの身体も心も強くしていきます。
「それからは給食が大好きになりました。そして、声をかけてくれた管理栄養士の先生のようになりたいと思うようになりました。
実際に給食の現場で働き出してからは、子どもたちの笑顔が本当にかわいくて、かわいくて。僕が一生懸命考えた給食を、600人の子どもたちが笑顔で食べてくれる。忙しい毎日でも、子どもたちに会いたいから頑張れる。なんて尊い仕事なんだろうと気がつきました。
その幸せを感じると同時に、子どもたちの給食には一食も手を抜けないな、と日々気持ちを引き締めています」(松丸先生)
───◆─────◆───
「給食の時間は、子どもたちからたくさんのご褒美をもらっている」と話す松丸先生。そんな松丸先生の給食を食べられる子どもたちは幸せだなあと感じました。
社会情勢が目まぐるしく変化し、家庭のあり方が多様化していくなかで、管理栄養士の先生や担任の先生はさまざまな視点を持って子どもたちの給食に向き合っています。
すべての子どもたちが等しく、おいしく楽しく給食を食べられる環境が続きますように。
取材・文/遠藤るりこ
令和の給食連載は全6回。
1回目、2回目、3回目、4回目、5回目。
遠藤 るりこ
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
松丸 奨
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe
1983年千葉県生まれ。東京都文京区の小学校で管理栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。 フジテレビ系ドラマ『Chef~三ツ星の給食~』(2016年)では、給食の監修・調理指導を担当。台湾、フィリピンなど海外でも食育指導を行なう。日本テレビ系「世界一受けたい授業」やTBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」などメディア出演多数。 主な著書に『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書) 、『給食が教えてくれたこと 「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版) 、『日本一の給食メシ 栄養満点3ステップ簡単レシピ100』(光文社)、『子どもがすくすく育つ 日本一の給食レシピ』(講談社) 。 公式ブログ『小学校栄養士 松丸奨のブログ』 Instagram @matsumaru.susumu Xアカウント @matsumarurecipe