安曇野ちひろ美術館に行ってみた! いわさきちひろの絵から子どもが考えた「へいわ」とは

子連れで行くファーストミュージアムとしてもおすすめ(長野県松川村)

北林 日菜

plaplax「ふ_た_り のベンチ」(2024年)
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小6の読書好き息子&小3のアート好き娘をもつ、エニママライター北林日菜です。2024年の夏、安曇野ちひろ美術館でいわさきちひろさんの企画展を見てきました(同企画展は10月12日から東京にも巡回予定)。子連れで行きやすい美術館で、子どもたちがどんな反応をしたのかレポートします。

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今年の夏、念願だった「安曇野ちひろ美術館」を訪問しました。私自身、子ども時代からいわさきちひろさんの絵本はたくさん読んできましたが、青春時代に戦争を体験されていたことを今回初めて知りました。それだけに、平和の象徴のような自然豊かな美術館で多くのことを考えさせられました。

安曇野ちひろ美術館に行ってみた!

安曇野ちひろ美術館は、絵本画家のいわさきちひろさんのご両親が暮らしたご縁で、長野県北安曇郡松川村にあります。ここは安曇野市から白馬村まで約50kmの間に18館の美術館がある「安曇野アートライン」の加盟館です。

山に囲まれた芝生広場の向こうに見える大きな三角屋根が「安曇野ちひろ美術館」。
入り口の屋根を見上げたところ。将来大工さんになりたい息子は曲げられた木の建築を大絶賛していました。

◆ファーストミュージアム

子連れで美術館に行くのは不安というパパ、ママも多いのでは? こちらは子どもが人生で初めて訪れる「ファーストミュージアム」として嬉しい工夫がたくさん! たとえば作品の中心の高さが床から135cmで、親子で見やすい高さに展示されています。一般的な美術館だと小柄な娘を持ち上げることの多い私には嬉しすぎる気配りでした。

◆飽きっぽい子だって大丈夫!

授乳室やベビーシート、休憩できる絵本カフェのほか、「子どもの部屋(プレイルーム)」や約3000冊の絵本がある「絵本の部屋」まであります。美術館の隣には北アルプスの山々を望む芝生や大花壇が広がる「安曇野ちひろ公園」があるので、体を動かして遊ぶことだってできちゃうんです。

「安曇野ちひろ公園」についてはこちらの記事でくわしくご紹介しています。
『窓ぎわのトットちゃん』の世界が目の前に! 安曇野ちひろ公園「トットちゃん広場」と安曇野ちひろ美術館

「絵本の部屋」の一部。個人的には棚の上に見える絵本キャラクターのぬいぐるみにキュンとします。
「子どもの部屋(プレイルーム)」。あんよ前の赤ちゃんものびのびできるようなスペースは下の子を連れているときなど本当にありがたいですよね。

「いわさきちひろ ぼつご 50 ねん こどものみなさまへ みんな なかまよ」

8月に訪問した安曇野ちひろ美術館で開かれていたのは「いわさきちひろ ぼつご 50 ねん こどものみなさまへ」と題された3つの展覧会のうちの「みんな なかまよ」という企画展。単に飾られた絵を鑑賞するだけでなく、子どもが参加型で「平和」を考えられる企画です。

「みんな なかまよ」展の詳細はこちらからご覧ください。
「みんな なかまよ」安曇野ちひろ美術館ホームページ

◆となりにきたこ

(左)いわさきちひろ そっぽを向く少年 『となりにきたこ』(至光社)より(1970年)
(右)いわさきちひろ そっぽを向く少女 『となりにきたこ』(至光社)より(1970年)

ちひろさんの絵本『となりにきたこ』をテーマにしたコーナーでは、他者との距離やコミュニケーションなど身近なところから平和について考えました。絵本の中では、隣に引っ越してきた子ども同士の微妙な関係がどう変化していくのかがリアルに描かれています。原画の展示の真ん中には、絵本に登場する少年や少女の関係をはかるベンチ(plaplax ふ_た_り のベンチ 2024年)が置かれていました。

『となりにきたこ』をテーマにしたベンチ。兄妹はべったり隣に座ったけれど……このあとどうなるかな。

「ここに座ったら声が届かないから仲よくなれないかも」

「この子たちの間に座ったら邪魔しちゃうしな~」

「この子とこの子は仲が悪いのかな?」

どこに座るか考えるだけで、いろいろな想像力を働かせます。迷った挙げ句、我が家の兄妹はぴったり隣に座りました。仲よしのときはいいけれど、腕が当たっただの狭いだのケンカが発生しやすい距離でもあります。「話し合いで解決できればいいけれど……。いや、それができるなら国境紛争は起こらないのか」と深いテーマに母はうなってしまうのでした。

『となりにきたこ』(文・絵:岩崎ちひろ、案:武市八十雄/至光社)

娘はこのあとに、絵本『ひとりひとり』をテーマとした展示を見て「ひとりなら争いは起きないよね。でもさみしい」とポツリとこぼしました。

谷川俊太郎さんの詩といわさきちひろさんの絵による『ひとりひとり』の企画を見る兄妹。
『ひとりひとり』 谷川 俊太郎/文 いわさき ちひろ/絵 (講談社)

ちひろさんの絵に魅せられて…

アート好きの娘は、いわさきひちろさんの絵のタッチのやわらかさにあらためて感動していました。特に「買いものかごを持つ少女」は、輪郭を描かずに背景を塗りながら白地を残して主人公を際立たせているところにびっくりしたそう。息子もこの絵が印象的だったようで、「ちひろさんがこの女の子をやさしい目線で見ていることがすごく伝わってくる」とのことでした。

いわさきちひろ「買いものかごを持つ少女」(1969年)を観賞する娘。

「十五夜の子どもたち」(いわさきちひろ・1965年)を見た息子の感想は「子どもが誰も月を見ていないけれど楽しそうなところを見て、ちひろさんは子どもをわかっているなと思った」。

自分も子どものくせに「子どもをわかっているな」なんて、生意気で笑ってしまいます。でも確かに大きな満月をバックに5人の子どもたちは誰も月を見ていないんです。大人は「十五夜なんだから月を見なよ」と言いたくなりますが、ススキに来た虫を見ているのか、おしゃべりをしているのか、みんな生き生きとして楽しそう。

子どもが子どもらしくいられる光景は、平和であるからこそ。戦争に心を痛めていたちひろさんならではの視点を、子どもの感想によって気づかされ、またあたりまえの光景ではないのだと感じました。

いわさきちひろ「十五夜の子どもたち」(1965年)

へいわを言いかえるなら?

企画展の後半では、大きな窓のある多目的ギャラリーが「ともにかんがえよう」という参加型のお部屋になっていました。「『へいわ』を言いかえるなら?」「『となりにきたこ』にどんなことばをかける?」などの問いかけが書かれており、訪れた人たちは思い思いの言葉を書いて、窓に貼っていきます。

実は今回の訪問で、私は母としてひとつの裏テーマを持っていました。それは企画展を通して、ちひろさんからの「平和」のメッセージを子どもたちがどう受け取るのかを知ること。

昭和生まれの私と比べて、今の子どもたちは戦争学習の時間が大幅に少なく、身近に戦争経験者もほとんどいません。平和についてどんな価値観を形成していくのか、ひそかに心配していました。

「『へいわ』を言いかえるなら?」に対して、息子は「あたりまえ」、娘は「自由」と書きました。息子は「ちひろさんは、戦争を直接描くのではなく、子どもを描くことで平和のメッセージを伝えたところがすごい。戦争も、身近な争いも、根っこは同じなんだなと思った」「今も世界には戦争があるし、自分の周りの平和があたりまえじゃないことを実感した」と教えてくれました。

企画展の「ともにかんがえよう」のお部屋。左の窓に貼られたカラフルな付箋には、みんなが考えた言葉がたくさん書かれています。

あたりまえの平和に気づかされた

安曇野ちひろ美術館と、そこで開催されていた「みんな なかまよ」の企画展についてご紹介しました。企画展では毎日あたりまえだと思っていることが、実は平和の上に成り立っていることに気づかされました。家族間であらためて話すことのない「平和」について、息子と娘と話せたのは企画展のおかげです。

ただうちは小6と小3の大きい子どもたちなので深い話になりましたが、小さなお子さんでも楽しめる工夫がたくさんあるのでご安心ください。

ミュージアムショップでは娘が『ちひろの絵のひみつ』(講談社)という本を買いました。輪郭を描かない手法やにじみに興味津々で、これからどんな絵を描くのかもあわせて楽しみです。

子どもたちがミュージアムショップで選んだおみやげたち。左下はレターセット、右下は額入りの小さな絵。

私たちが見た「みんな なかまよ」は、2024年10月12日から2025年1月31日まで、東京都練馬区の「ちひろ美術館・東京」で開催予定です。安曇野ちひろ美術館では、2024年9月7日から12月1日まで「あれ これ いのち」が開催されています。

※ご協力:安曇野ちひろ美術館

※注釈がない記事内写真は撮影:北林日菜

【安曇野ちひろ美術館】
住所:〒399‐8501 長野県北安曇郡松川村西原3358‐24
電話:0261‐62‐0772
開館期間:2024年3月1日~12月1日(2024年の開館時間は10:00~17:00)
休館日:毎週水曜日(祝休日開館、翌平日休館)
入館料:大人1200円/18歳以下・高校生以下無料
※保護者割引あり:18歳以下の方に同伴する保護者(子ども1名につき2名まで)は900円
詳細はHP:https://chihiro.jp/azumino/visit

【ちひろ美術館・東京】
住所:〒177‐0042 東京都練馬区下石神井4‐7‐2
電話:03‐3995‐0612
開館時間:10:00~17:00
休館日:毎週月曜日(祝休日開館、翌平日休館)
入館料:大人1200円/18歳以下・高校生以下無料
※保護者割引あり:18歳以下の方に同伴する保護者(子ども1名につき2名まで)は900円
詳細はHP:https://chihiro.jp/tokyo/visit/

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きたばやし ひな

北林 日菜

Hina Kitabayashi
AnyMaMa(エニママ)ライター

AnyMaMa(エニママ)ライター兼コクリコ・サポート・エディター 2012年生まれのサイエンス好き男子、2015年生まれアート好き女子の母。都内で広告営業や出版業を経て、結婚を機に茨城県に移住。以後リモートワークを中心に、エニママや県内のご縁ある企業でフリーランスライターとして活動中。 AnyMaMa:https://anymama.jp/  Twitter:https://twitter.com/AnyMaMaJP

AnyMaMa(エニママ)ライター兼コクリコ・サポート・エディター 2012年生まれのサイエンス好き男子、2015年生まれアート好き女子の母。都内で広告営業や出版業を経て、結婚を機に茨城県に移住。以後リモートワークを中心に、エニママや県内のご縁ある企業でフリーランスライターとして活動中。 AnyMaMa:https://anymama.jp/  Twitter:https://twitter.com/AnyMaMaJP

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