不登校の子どもを追い詰める「親の不安」 2000人の子どもを見た識者に聞く「親の理解の仕方」とは

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#7‐2 認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長・西野博之さん~不登校の子どもの世界と理解の仕方~

認定NPO法人「フリースペースたまりば」理事長:西野 博之

ゲームは孤独を生きる「命綱」

また、学校に行きづらくなり、朝起きられずに昼夜逆転生活になってしまう子どもも、少なくありません。規則正しい生活ができる親からは、「なまけている」「ズルしている」と感じ、理解に苦しむことでしょう。

でもそんな生活サイクルも、子どもたちにしてみれば学校に行けないことで「自分はダメな人間なんだ」と苦しみ、壊れそうな心を何とか守るうえで必要なプロセスなのだと思います。これも、当事者である子どもたちとコミュニケーションを重ねる中で、気づいたことです。

「家の中で勉強もせず、ゲームばかりしていて心配」という不安も、多くの親から寄せられました。でも、実際にゲームに没頭していた元不登校の子どもたちに聞いたところ、「ゲームがあったから何とか生きられた」「オンラインでつながった仲間のおかげで孤独じゃなかった」と、当時の切実な思いを教えてくれました。

つまり、親の目には「遊び」としか映らないゲームですが、学校に行かなくなり一人で過ごすしかなくなった子どもにとっては、社会や仲間とかろうじてつながれる唯一の「命綱」という側面があるのです。

事実、怒った親が「こんなもの!」とゲームを捨ててしまい、絶望した子どもが命を絶ってしまった、非常に不幸なケースがありました。

子どもたちは、自分が学校に行けなくなったことで「お父さんとお母さんを困らせてるダメな子どもなんだ」と思いつめて、自己肯定感がめちゃくちゃ下がっている状態です。

「こんな自分が生きてる価値なんてないんだ」とまで思ってしまう。そんなふうに心がボロボロの状態でも、ゲームに没頭することで、何とかつらい気持ちをまぎらわせている。

大人にとっては不可解な行動でも、子どもが命をつなぐうえで必要なアクションだったんだと、皮肉なことですが、子どもの命を失ってから気づくわけです。

そもそも大人たちは、ゲームばかりしている子どもを見ると「大丈夫?」と不安になるものですが、じゃあ学校に毎日行っているだけで子どもは本当に「大丈夫」なのかと考えると、そうとも限りませんよね。

昼夜逆転生活にせよ、ゲームにせよ、不登校の子どもたちと接していて痛感しましたが、子どもたちが自分らしく生きていくうえで「すき間」があることは、どうしても必要なことです。

子どもが生きている世界は、大人が考えるほど「原因と結果」とか「正解と不正解」とか、明確なものだけで満たされた世界ではありませんから。

一方で、子どもたちが自分らしく育つために欠かせないものとは何かということも、この40年で確信を深めました。

それは周囲、特に大人たちの肯定的なまなざしです。

人を笑わせることが好きな子どもをおもしろがったり、上手に火起こしをする子どもや、木工細工が好きな子どもに「すごいね」「よかったね」と伝えたりする。それが肯定的なまなざしです。

もちろん特技のあるなしは関係なくて、よく眠る子を見ながら「癒やされるね」とつぶやいてもいい。一人一人の一番いいところや強い部分を探し出して、肯定的なまなざしを向けるだけで、子どもは自分らしく育ちます。

だからまずは、学校に行かない子どもたちの親であるみなさんが、ご自身の不安を取り除いてください。そして目の前の我が子の存在を丸ごと肯定し、「大丈夫」を伝えてください。


取材・文/浜田奈美

2024年6月刊行の西野さんの著書『マンガでわかる! 学校に行かない子どもが見ている世界』(KADOKAWA)。西野さんが経験した「不登校あるある」の事例とその答えを漫画で紹介。Amazonの「いじめ・不登校」の売れ筋ランキングで1位を獲得した。
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※西野博之さんインタビューは全4回(公開までリンク無効)
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にしの ひろゆき

西野 博之

Hiroyuki Nishino
認定NPO法人フリースペースたまりば理事長

東京都生まれ。川崎市子ども夢パーク、フリースペースえんなど、各事業の総合アドバイザー。精神保健福祉士、神奈川大学非常勤講師。 1986年より学校に行かない子どもや若者の居場所づくりを行う。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員など数々の公職も歴任。NHKをはじめとするメディアにも多数登場。 2021年まで15年間、「川崎市子ども夢パーク」の所長を務め、2022年にはそこで過ごす子どもたちの日常を描いたドキュメンタリー映画「ゆめパのじかん」が公開された。 『学校に行かない子どもが見ている世界』(KADOKAWA)など著書多数。 ●NPO法人フリースペースたまりば

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東京都生まれ。川崎市子ども夢パーク、フリースペースえんなど、各事業の総合アドバイザー。精神保健福祉士、神奈川大学非常勤講師。 1986年より学校に行かない子どもや若者の居場所づくりを行う。文部科学省「フリースクール等に関する検討会議」委員など数々の公職も歴任。NHKをはじめとするメディアにも多数登場。 2021年まで15年間、「川崎市子ども夢パーク」の所長を務め、2022年にはそこで過ごす子どもたちの日常を描いたドキュメンタリー映画「ゆめパのじかん」が公開された。 『学校に行かない子どもが見ている世界』(KADOKAWA)など著書多数。 ●NPO法人フリースペースたまりば

はまだ なみ

浜田 奈美

Nami Hamada
フリーライター

1969年、さいたま市出身。埼玉県立浦和第一女子高校を経て早稲田大学教育学部卒業ののち、1993年2月に朝日新聞に入社。 大阪運動部(現スポーツ部)を振り出しに、高知支局や大阪社会部、アエラ編集部、東京本社文化部などで記者として勤務。勤続30年を迎えた2023年3月に退社後、フリーライターとして活動。 2024年5月、国内では2例目となる“コミュニティー型”のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)に密着取材したノンフィクション『最後の花火』(朝日新聞出版)を刊行した。

1969年、さいたま市出身。埼玉県立浦和第一女子高校を経て早稲田大学教育学部卒業ののち、1993年2月に朝日新聞に入社。 大阪運動部(現スポーツ部)を振り出しに、高知支局や大阪社会部、アエラ編集部、東京本社文化部などで記者として勤務。勤続30年を迎えた2023年3月に退社後、フリーライターとして活動。 2024年5月、国内では2例目となる“コミュニティー型”のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)に密着取材したノンフィクション『最後の花火』(朝日新聞出版)を刊行した。