熊本発・大人の「待つ姿勢」が子どもを育てる 自由進度学習の広がりがもたらすもの

【小学校教育2.0】熊本市立弓削(ゆげ)小学校・松永先生の挑戦#4 「自由進度学習・学校への広がり」

ライター:川崎 ちづる

子どもたちが自分で学び、考え、成長する。それを見守る姿勢が大切です。  写真提供  松永賢斗氏

弓削小学校で、松永賢斗先生が一人で始めた自由進度学習(学びの個別化・協同化)は、2021年秋から徐々にその効果が認知され始め、校長先生の後押しもあり、学校全体に広がるように思われました。

一度は多くの先生がチャレンジしたものの、継続的に行うまでには至りませんでした。

自由進度学習で、はつらつと学ぶ子どもたちの姿を見たにもかかわらず、その取り組みが続かなかったのはなぜなのでしょうか。

そこには、即効性を求める現代社会のなかで教育を行う難しさ、先生のみならず、親にも共通する課題がありました。

第4回は、松永先生と弓削小学校での実践の試行錯誤を通して、学校や家庭、そして社会において、子どもが自ら学ぶなかで気づき、改善し、成長する学びのサイクルを広げるために、大切となる考え方についてうかがいました。

※全4回の第4回

学校中に自由進度学習の効果が伝わった!

松永賢斗先生が、算数の授業で本格的に自由進度学習の実践を始めてから約1年後の2021年秋。学校内でも少しずつ、松永先生が「一斉授業ではない方法を取り入れているらしい」という話が広がっていました。校長先生が、ふらっと授業をのぞきにくることもありました。

自由進度学習で学びを深める子どもたち。  写真提供 松永賢斗氏

そして、学年主任の先生から、意外な打診を受けます。

学校の先生全員に向けて、自由進度学習を行っている授業を公開する「提案授業をしてほしい」というのです。

実は、学年主任の先生だけでなく校長先生も、かねてから「学びの個別化・協同化」に関心を持っていました。しかし、本当にうまくいくのか確信を持てなかったそう。それが、松永先生の授業での子どもたちの様子を見て、価値のある実践だと実感しました。

こうした経緯で、松永先生は、「学びの個別化・協同化・プロジェクト化」の理論を先生方に説明しつつ、自由進度学習の授業を公開。他の先生方に、授業を見てもらいました。

そして、その直後にはたくさんの良いフィードバックをもらいました。

「多くの先生が、子どもたちが自主的に、いきいき学ぶ姿を目の当たりにして、とても驚いたようでした。

子どもたちは、自分で時間を管理しながら、分からない部分が出てきたら立ち止まって考え、自分自身で学びを進めている。そして、誰とでもコミュニケーションを取ることができ、分からない子には自分の手を止めて教えている。

教師が一斉に教えなくても、自分の力で学ぶことができるんだ、と実感されたのだと思います」(松永先生)

校長先生の「自立的な学び」を進めたいという意向もあり、その後一気に機運が高まり、他の学年やクラスでも自由進度学習を始めようとする動きが出はじめました。

これは大きな流れになる、と期待しましたが、実際はそれほど簡単ではありませんでした。

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